市民福祉情報オフィス・ハスカップは11月30日、
小宮山洋子・厚生労働大臣と輿石東・民主党陳情要請対応本部本部長に、
現在、社会保障審議委介護給付費分科会の介護報酬改定の議論に出されている
ホームヘルプ・サービス(訪問介護)の「生活援助」、
介護予防ホームヘルプ・サービス(介護予防訪問介護)の提供時間縮小案について、
撤回を求める要望書を提出しました。
2011年11月30日
厚生労働大臣
小宮山 洋子 様
市民福祉情報オフィス・ハスカップ
主宰・小竹雅子
【介護報酬改定にあたっての要望書】
平均年齢82.5歳の介護保険利用者への
ホームヘルプ・サービス提供時間の縮小案を撤回してください
市民福祉情報オフィス・ハスカップは、介護保険制度を中心に連続セミナーや電話相談「介護保険ホットライン」などを企画している市民活動団体です。
2006年から開設している「介護保険ホットライン」は首都圏を中心に市民活動団体との共同企画で、今年も6月に東京、大阪、富山の3か所で実施し、報告書をまとめました。
【要望】
1. 根拠が不充分なホームヘルプ・サービスの提供時間短縮案を撤回し、
現行の提供時間を維持してください。
2. ホームヘルプ・サービスの見直しにあたっては、
利用者、介護者、介護労働者など現場の声を聞き、
国民の信頼を得ることができる審議をしてください。
【要望の背景】
2012年度介護報酬改定を検討している社会保障審議会介護給付費分科会で、厚生労働省老健局からホームヘルプ・サービス(介護予防訪問介護、訪問介護)の改定について、以下の「論点」が提出されています。
① 訪問介護の基準・報酬(2011年10月17日、第82回介護給付費分科会資料より)
・生活援助が中心である場合、現行の「30分以上60分未満」を「45分未満」に見直す
・身体介護に引き続き生活援助を行う場合についても必要な見直しを行う
② 介護予防訪問介護の基準・報酬(2011年10月31日、第83回介護給付費分科会資料より )
・訪問介護サービスの今回の見直し案を考慮しつつ、
介護予防のサービスの提供実態に基づいた単位設定とする
厚生労働省は要介護認定者(要介護1~5)への「生活援助」、要支援認定者(要支援1・2)への「介護予防訪問介護」を見直す根拠として、次のような説明をしています。
1. 利用頻度の高い「掃除」・「調理・配下膳」の平均所要時間は30~40分程度
2. 「掃除」は軽度者ほど利用頻度が高い
3. ひとつの行為は15分未満ですむ場合もあり、組み合わせによっては30~40分程度になる
【要望の理由】
[ホームヘルプ・サービスは、高齢者の自宅での暮らしを支えています]
日本の高齢者世帯は、三世代同居が44.8%(1986年)から16.2%(2010年)に激減し、ひとり暮らしと高齢夫婦が過半数を占めています。
介護保険サービスは認定(要支援認定・要介護認定)を受けなければ、利用することができません。
ホームヘルプ・サービスは、要支援認定者への介護予防訪問介護は約57万人、要介護認定者への訪問介護は約125万人、合計約182万人が利用している大切なサービスです(2010年度現在)。
ホームヘルプ・サービスは「身体介護」、「生活援助」、「通院等乗降介助」とメニューが細分化されていますが、訪問介護利用者の約7割が「生活援助」を利用し、「2011年度介護事業経営実態調査」では「生活援助」の1回平均提供時間は約70分と報告されています。
病気や障害により介護保険サービスが必要と認定された高齢者にとって、「掃除」や「洗濯」による清潔な環境を維持、「調理・配下膳」による食事の確保、服薬や買い物といった支援、ホームヘルパー(訪問介護員)とのコミュニケーションは、「最期まで家で」の願いを実現するために必要不可欠なサービスです。
[前回改定以降、ホームヘルプ・サービスの利用は制限され続けています]
2006年度の介護報酬改定以降、"同居家族"がいる場合は「生活援助」の利用を認めないという機械的な判断をする市区町村(保険者)が増えました。このため、介護が必要な親と同居する働く子ども世帯への負担が重くなり、同居をためらうケースも出ています。
また、介護予防訪問介護では、介護報酬が時間単位の加算制から月単位の定額制になり、利用回数が減るなど実質的な利用制限が行われています。
[介護保険制度がめざす"医療と介護の連携"にも「生活援助」は不可欠です]
現在、介護報酬の見直しでは在宅サービスの"医療と介護の連携"のため、訪問看護、訪問リハビリテーションの強化が検討されています。
しかし、看護師やリハビリテーション専門職は介護が必要な人を看てくれますが、「掃除」や「洗濯」など生活環境の維持には協力してくれません。
介護保険制度が自宅での暮らしを支えることを目指すなら、「生活援助」の役割はさらに重要になります。
[「生活援助」の短縮は、働く世代の負担を増やします]
働く子ども世代の「遠距離介護」や「別居介護」が成立しているのは、ホームヘルプ・サービスがあるからです。
なかでも「生活援助」は日常生活の支援であり、その提供時間を短縮することは、働く子ども世代や介護する家族への負担を増やすことになりかねません。
また、高齢者虐待や介護殺人、介護心中などいたましい社会事件がこれまで以上に増えることが危惧されます。
[ホームヘルパーの離職に拍車がかかります]
ホームヘルパーは毎日、高齢者の自宅を数ヵ所訪ねています。
厚生労働省は「生活援助」の提供時間について、ホームヘルパーのサービス内容を"行為"ごとに分け、それぞれの平均時間を積み上げて、時間短縮ができるとしています。
ホームヘルパーが機械的に"行為"を提供すればいいという発想は、「感情労働」とも呼ばれ、コミュニケーションが常に求められる対人サービスを不当に低く評価するもので、ホームヘルパーの労働意欲を低下させ、離職をさらに増やすことが懸念されます。
以上
[資料3 「生活援助」を提供するホームヘルパーの声]
千葉県訪問介護フォーラム(2011.10.30)アンケートより抜粋
○「掃除」を軽視していますが、掃除が出来ず、ゴミの中で生活する利用者の実態をご存じでしょうか。
自分が寝たきりになった時、自分の親が寝たきりになった時、ゴミの山の部屋に寝てられますか?
○多くの利用者は、自分で掃除機をかけるのすら大変です。
買い物もつらくなり、自分で暖かい料理を手作りするのも難しくなっている人が多いのです。
○私たちは掃除や調理のために「生活援助」に入っているのではなく、利用者の生活を支えることが目的です。
日々、訪問するたびに利用者の心身の状態も変わっていて、何が起こるかわかりません。
一律に同じ「行為」を提供できるわけがないことを全く理解してもらえていないことに驚きました。
○「生活援助」は利用者の個別性(生活習慣、価値観)があり、「身体介護」よりクレームに繋がるケースが多く、ホームヘルパーの技量が求められるサービスであることを理解して頂きたいと思います。
○「生活援助」の調理がなく、配食サービスのお弁当などで生命の維持さえできればいいのでしょうか。
○そもそも「生活援助」を介護保険からはずそうという厚生労働省の考え方が、透けて見えます。色々な考え方があるとは思いますが、家事の延長とさげすまれていることが悲しいです。
○「生活援助」は利用者とのコミュニケーションをはかりながら「掃除」や「調理」などを提供するものです。行為別の提供時間に、コミュニケーションをとる時間が反映されていないことが問題です。
○ホームヘルパーはロボットではありません。
人と人との関わりのなかで支援をしています。介護は会議で決まるものではありません。現場で起きていることです。
○ホームヘルパーの仕事の効率は悪く、30分訪問するために移動時間も含めて午前中がつぶれてしまうことがよくあります。
30分、60分の訪問を3件入れたらほぼ1日終わってしまいます。ばからしくやっていられないと言われても仕方がない仕事を、みんなもくもくとしています。
時間区分が45分に短縮されると、仕事をしてくれるホームヘルパーが減ると思います。
○独居が増える中で、ホームヘルパーとの係わりの大切さを考えてほしい。看護や医療も大事ですが、それらを必要とする時期が少しでも後になるよう、「生活援助」こそ給付費を抑制できると思います。
○ホームヘルパーは年末年始も休めず、残業で疲弊しています。
離婚女性が多い職場ですが、給与は不充分で、数年間の常勤経験しかないため老後はわずかな国民年金だけが頼りになります。
私を介護してくれるホームヘルパーはいるのでしょうか。
○ホームヘルパーをバカにするな! 「生活援助」ほど難しいものはないと思う。コミュニケーションなくして、生活の安定があるのか?
官僚は1日でも「生活援助」の仕事を体験すべきだ。
○軽度の認知症で独居の利用者に「生活援助」を45分で、どうやって終了できると言うのか?
厚生労働省、いいかげんにしろと言いたい。
○「生活援助」を必要としているお年寄りはたくさんいます。
提供時間は今までと同じ1時間としてほしいです。ホームヘルパーはロボットではありません。
利用者も今までの人生を頑張ってこられた人たちです。これからも安心して過ごすために「生活援助」は一層必要です。