介護保険制度を中心とする行政情報、各地の市民活動団体の活動などを紹介しながら、みなさんとともに「市民福祉」を考えていくサイトです。

CF073 『家路』
母とともに戻る土地

東日本大震災から4年が過ぎた。
介護保険が被災高齢者に提供した特例も減り、保険料と利用料の減免措置が残るのは福島県の9町村。
東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故で、避難せざるを得なかった人たちの自治体のみとなった。本作は、その失われた土地が舞台だ。

沢田次郎(松山ケンイチ)は、立ち入り禁止となった故郷に20年ぶりに戻って来た。
沢の水を汲んで米を研ぎ、田起こしをする。
パトロールの警官に退去をうながされても、「生まれたとこですよ。ここで暮らすって決めたんだ」と動じない。

次郎の兄・総一(内野聖陽)は父亡き後、守ってきた田畑を失い、妻の美佐(安藤サクラ)と幼い娘、継母の登美子(田中裕子)と仮設住宅で暮らす。
デリヘルで働く妻にやきもきしながら、狭い家で身のおきどころがない。
美佐は「みんなでどごが行こうよ」と励ますが、「福島の女の子は結婚できっか。よそでいじめられたりしねか」と不安だ。
彼女は「あたしら、後ろ指さされるようなことしてねえべ」と憤然とする。

だが、総一には、ワンマンな父親の歓心を得ようとして、こぜりあいの絶えない隣家の田の水を抜いた負い目があった。
おまけに長男であったがために、異母弟の次郎が罪をかぶり、高校を中退して町を出たのだった。

一方、登美子はおかしな言動が増えていた。
買い物の帰路、仮設住宅群に惑い、恐怖にかられる。
田中裕子の切迫した表情が印象に残る。

次郎の帰郷を知った総一は、失ったはずの土地でクワをふるう次郎に「今頃帰ってきて、なにしてんだ」とつかみかかる。
次郎は「二度と戻らないと思ってた。だげど、もう誰もいねえぞ、戻ってこいって田んぼが呼んだ」とつぶやく。

次郎に再会した登美子は、苗床を作っているという息子に「タネモミ、だいじょうぶだったか」と正気の風情。
そんな母を見て、次郎は彼女を連れて帰ることにする。
「人の住める土地じゃねえんだ」と叫ぶ兄に、「なんとかすっぺよ」とほほ笑んで...。

鮮やかな新緑に包まれた無人の風景に粛然とするとともに、行き止まりでもなお、踏み出す意志を教えられた。


(久保田直監督/2014年/日本/118分)