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2017.11.01 厚生労働大臣に「生活援助」についての要望書を提出しました
 11月1日、介護保険ホットライン企画委員会と介護労働ホットライン実行委員会は、加藤勝信・厚生労働大臣に、第7期介護報酬改定に関する要望書「訪問介護の『生活援助』の人員基準緩和案に反対します」を提出しました。
 10月29日に社会保障審議会介護給付費分科会委員に送付した要望書と同じ内容です。

2017年11月1日

厚生労働大臣
加藤勝信  様

介護保険ホットライン企画委員会共同代表(NPO):小竹雅子、小島美里、林洋子
介護労働ホットライン実行委員会共同代表(弁護士):大江京子、井堀哲、藤澤整

第7期介護報酬改定に関する要望書
訪問介護の「生活援助」の人員基準緩和案に反対します

 日頃から、介護保険制度全般にわたる推進にご奮闘されていることに敬意を表します。
 「介護保険ホットライン企画委員会」は市民活動団体で、2006(平成18)年から介護保険制度について、利用者、介護者を中心に広く市民の声を集める電話相談を開設しています。「介護労働ホットライン実行委員会」は、弁護士を中心に、2013(平成25)年以降、電話相談「介護労働ホットライン」を開設しています。

 現在、社会保障審議会介護給付費分科会では、第7期(2018~2020年度)の介護報酬の改定について審議がおこなわれています。
 改定をめぐる論点とその課題は多々ありますが、とくに訪問介護(ホームヘルプ・サービス)の「生活援助」の人員基準の緩和案について、私たちは大きな不安を抱いています。
 介護保険の利用者には、ひとり暮らし、高齢夫婦のみの暮らしが増え続けています。また、介護が必要になる理由のトップは、認知症です。
 訪問介護の「生活援助」の基準緩和により想定される介護報酬引き下げは、「介護のある暮らし」に深刻な影響を及ぼし、社会不安を広げかねません。
 「生活援助」は、高齢期の在宅生活をギリギリのところで支える「支援」です。高齢期に虚弱状態に陥ると生活が崩れ、放置すれば、要介護状態を進行させる要因になるだけでなく、生命の危険を招きかねません。
 高齢者の尊厳を確保し(憲法13条)、「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う」(介護保険法1条)ことを目的とする介護保険制度の根本理念にもとづき、訪問介護員(ホームヘルパー)が行う業務の実情を確認し、「生活援助」に対する無理解を払拭してください。

1.第7期の介護報酬改定において、「生活援助」を含む訪問介護は、少なくとも現行基準と報酬水準を維持してください。
2.訪問介護の質の向上とサービスの充実をはかるため、介護認定者の全国在宅実態調査を実施し、公正で合理的な見直し行なうことを求めます。

[参考]訪問介護の「生活援助」は超高齢社会の命綱です

1.プレごみ屋敷
 訪問介護員(以下、ホームヘルパー)が初回訪問をしたとき、ドアの奥にモノが散乱している家は、程度の差こそあれ、少なくありません。
 近隣から苦情がでるような「ごみ屋敷」状態であるなら、行政が介入し、専門業者が対応しますが、モノが散乱している程度の場合は、訪問介護の「生活援助」で対応することになります。
 認知症初期の利用者の場合、ホームヘルパーが一気に片づけてしまうと、利用者に「盗まれた」、「持っていかれた」という妄想が生まれます。
 「生活援助」の掃除では、少しずつ、気がついたらきれいになっていたという状態に持っていかなければなりません。
 初心者のホームヘルパーは一生懸命にきれいにしてしまうことがあり、「ドロボウ扱い」され、出入り禁止となりかねず、サービス提供責任者の指示が重要になります。
 根気が求められる「生活援助」の積み重ねには、数か月を要することもあります。
 生活環境の改善は、利用者の精神的安定につながり、近隣との交流が復活する事例もあります。
 改善後は、生活環境の安定を維持するよう「自立支援」を続けることが、ホームヘルパーの任務です。

2.食中毒の防止
 「プレごみ屋敷」には、冷蔵庫のなかに、賞味期限切れや腐敗などで、食べられないものがすし詰めになっていることがよくあります。
 劣化した食べ物を口にして病気になるケースも見られ、適切な配慮が必要になります。
 このような場合、判断力が衰えた利用者にとって、ホームヘルパーが無断で食材を捨てるのはもってのほかの行為です。
 ホームヘルパーは、利用者本人にひとつずつ食材の確認を取りながら、「捨ててもよい」と言われたものだけを捨てます。「ダメ」と言われたものは捨てません。
 食べたら危険と判断したものは、なるべく冷蔵庫の奥に「隠す」ことがポイントで、利用者が手に取りやすい場所に安全な食材を置きます。
 「生活援助」で訪問するたびに、これらの行為を繰り返し、いつしか食べられないものが少なくなる、という過程が重要になります。

3.不快害虫にネズミ
 利用者の家のなかには、ダニ、ノミ、コバエ、ハエ、ゴキブリなどの不快害虫のほか、ネズミなど様々な生物が生息しているケースがあります。
 夏場のホームヘルパーの話題は、コバエがブンブンぐらいは序の口で、台所ゴミに蛆がびっしり、布団を裏返したら肉眼で見えるほど虫がいた、床の上をノミがいっぱい跳ねている、殺鼠剤を散布したらネズミの死骸が転がっていた、といった光景です。
 このような利用者宅への訪問には、担当するホームヘルパーの虫刺されなどの被害防止のほか、外への持ち出しを防止することも必要になります。
 ネズミの駆除などは専門業者への依頼が必須ですが、日常的な支援は「生活援助」の任務です。

4.服薬援助の実情
 利用者の多くは複数の病気を抱え、血圧の薬や心臓疾患の薬、糖尿病などの薬を服用しています。
 年齢相応の物忘れプラスアルファ程度であれば、「お薬カレンダー」などを使い、家族などが電話で促す程度で対応が可能です。
 では、飲んだか飲まないか忘れてしまう初期の認知症はどうするのでしょうか。
 ホームヘルプ・サービスの「身体介護」には「服薬援助」の項目があります。
 薬の処方は食後食間が多く、1日3回の訪問が理想ですが、1日1~2回は訪問しなければなりません。
 1日2回であれば月間60回以上、3回なら月間90回以上の訪問が必要になります。
 インシュリンの自己注射をする利用者の場合、ホームヘルパーは見守りで、目盛りの確認と注射を促すことが求められ、こちらも訪問回数が多くなります。
 本来なら「身体介護」で算定すべき行為ですが、利用限度額(区分支給限度基準額)や利用料(利用者負担)との兼ね合いなどで、単価の低い「生活援助」で算定しているケースがあります。
 介護給付費分科会では、第142回の参考資料に、「都道府県別の『生活援助』のみの利用状況(平成28年9月)」が示され、最高回数101回と報告されました。質疑では、101回のケースは、認知症でひとり暮らしの利用者の服薬支援だという答弁がありました。
 なお、「身体介護」の行為にすることが困難で、やむなく「生活援助」で算定している実態について、調査が行なわれたことはありません。

 以上のように、ホームヘルパーが提供する「生活援助」は、現行の基準を緩和して提供できるものではなく、むしろ難易度の高い支援です。
 また、ホームヘルパー研修(現・初任者研修)の受講修了者は1991~2012年度で累計383万人にのぼります。
 このうち、実際に介護の現場で働いているのは42万人で約1割にすぎません。
 なぜ、研修を修了していながら働いていない人がこれほど多いのでしょうか。
 実際にホームヘルパーとして働く人の多くは時間給の「登録ヘルパー」で、日常業務の課題分析やキャリアアップの機会が設けられていないことも課題ではないかと考えます。
 なお、訪問看護師の「利用者らから暴力や暴言、セクハラ被害に遭うトラブル」について、事業者団体が年内に独自調査をする予定との報道があります。
 ホームヘルパーのほうが訪問の歴史は長く、当然、訪問看護師と同様のトラブルを全国各地で抱えているはずなのに、課題が顕在化したこともありません。
 介護が必要な在宅生活を訪問で支える「生活援助」について、超高齢社会に伴う暮らしの諸問題に欠かせない支援であることを充分に考慮して、慎重な議論を行うことを求めます。

[参考資料]
○厚生労働省老健局
社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋・分科会長)

介護保険ホットライン企画委員会/介護労働ホットライン実行委員会 事務局
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