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CF084 『エレナの惑い』ELENA
ロシアの事情

舞台は初冬のモスクワ。
淡い陽の光が降り注ぐ高級マンションで、エレナ(ナジェジダ・マルキナ)はソファベッドで目覚める。
夫のウラジミル(アンドレイ・スミルノフ)は別室で、心地よさそうなキングサイズのベッドに眠っている。
まるで、住み込み家政婦のようなエレナは、元看護師。
10年前、ウラジミルは腹膜炎で入院し、献身的に看護するエレナに惹かれた。
ともに再婚の初老カップルだ。

エレナには、失業中で酒呑みの息子・セルゲイがいる。
孫のサーシャは成績、素行ともに不良で、大学進学は裏口しかなく、お金が必要だ。
息子にせがまれ、エレナは資産家の夫に支援を求めたが、「君の息子が、父親として面倒をみるべきだ」とつれない。
しかし、彼には溺愛する娘・カテリナがいる。
実の娘にはふんだんにお金を与えるくせに、おまけに、その娘はほとんど寄りつかないのに、とエレナは不満を募らせる。

ロシアは、ソ連時代の社会主義的セーフティ・ネットが解体し、市場経済に移行するなかで格差が拡大しているという。
ウラジミルの豪華マンションと、エレナの息子一家が暮らす郊外団地のコントラストが印象的だ。
ある日、ウラジミルはプールで心臓マヒを起こして入院した。
エレナはカテリナを呼び出し、「愛情を示してあげて」と言うが、「夫を案じる妻を見事に演じているけど、死んだらすぐ忘れるくせに」と突き放される。
ほどなく退院したウラジミルは死期を悟り、「私の財産のほとんどは娘に遺す。君には暮らすのに十分な年金を用意する」とエレナに告げる。
彼女は再び、息子一家への援助を頼むが、「私に養えと言うのか」と拒否された。
翌日は弁護士が来るから遺言の下書きをするという夫に、従順な妻として耐えてきたエレナは殺意を抱いた...。

話題になった小説『後妻業』(黒川博行著)では、高齢男性と結婚しては殺害し、遺産相続を繰り返す"ビジネス"に驚いたが、小説を地でいく事件が報道され、さらにたまげた。
それに比べれば、夫に抑圧され、息子一家に依存され、財産を手に入れても幸せな未来はなさそうなエレナに、思わず同情してしまう。
(アンドレイ・ズビャギンツェフ監督/2011年/ロシア/109分)