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CF089 『母よ、』MIA MADRE
ユニバーサルな困難

社会派で知られる映画監督のマルゲリータ(マルゲリータ・ブイ)は、ローマで撮影中。
離婚した夫との間に高校生の娘がいるが、思春期の女の子は扱いづらい。
俳優の恋人とは別れたばかりだが、彼は撮影中の作品に出演しているので毎日、顔を合わせなければならない。

なかなかストレスの多い人生だが、彼女が一番気がかりなのは、母・アーダ(ジュリア・ラッツァリーニ)の入院だ。
多忙な仕事を縫うように毎日、兄・ジョバンニ(ナンニ・モレッティ)と交替で病室に付き添うシーンが、ていねいに重ねられていく。

ラテン語教師だった母は物忘れも増え、「いつ退院できるの」と聞く。
しかし、医師からは「もう長くはない」と告げられている。
マルゲリータは母を失うのが怖くて、現実を受け入れることができない。
温厚な兄が頼りだ。

劇中に入れ子になっているマルゲリータの映画は、不当解雇がテーマで、アメリカ人の経営者と工場労働者の対立シーンが随所に挿入されている。
作業は進み、経営者を演じるバリー(ジョン・タトォーロ)がアメリカからやってくる。
彼は本気か冗談かわかない話を連発するうえ、イタリア語のセリフをすぐ忘れてしまう。
相次ぐ撮り直しに苛立つマルゲリータと開き直るバリーの激しい罵り合いには、苦いユーモアが漂う。

マルゲリータは、毎日をやり過ごすだけでもつらい。
だが、兄は母のために仕事を辞め、娘は失恋に傷ついていた。
彼女は自分のことしか考えていなかったことに気づき、衝撃を受け、元恋人に慰めを求める。
彼は呼びだしに応じてはくれたが、「君は注意深そうで、身勝手だ。不満の塊で、愛する者にも強要するんだ」とダブルパンチをくらってしまう...。

モレッティ監督の体験に基づく作品とのことだが、どこの国でも介護と看取りには困難と葛藤があることが描かれる。
日本は高齢化率世界一だが、イタリアもドイツに次いで第三位。
第二次大戦に敗れた旧・枢軸国であることは、偶然なのだろうか。
仕事と子育てに恋愛、親の看取りと世界共通のテーマであることを感じる作品。
(ナンニ・モレッティ監督/2015年/イタリア・フランス/107分)