介護保険制度を中心とする行政情報、各地の市民活動団体の活動などを紹介しながら、みなさんとともに「市民福祉」を考えていくサイトです。

BF126 『介護殺人』
介護殺人 追いつめられた家族の告白

大手新聞は東京に大阪、福岡などエリアごとに連載などが異なる。
本書は毎日新聞大阪本社社会部が、2010~2014年の5年間に起きた9件の介護殺人事件を抽出し、執行猶予になったり、刑期を終えた加害者に取材して、なぜ介護をしてきた者が殺人に至ったのかを追及した。

認知症の配偶者に夜ごとのドライブ、頻繁なトイレ介助などを求められ、介護者は追いつめられる。
医療ケアが必要な親を長期にわたり在宅介護していた子どもは、仕事を辞めて献身した果てに、重度の身体障害がある子どもを40年以上、慈しんできた母親は、介護疲労と認知症の発症により、の悲劇を起こした。

根気よく加害者を訪ねた取材チームが気づいたのは、「眠らない家族」を介護してきた加害者の慢性的な寝不足だった。
介護保険の在宅サービスでは夜間の支援がほとんどなく、安い費用で長期間利用できる施設の数も少ない。
紹介される事件では、介護保険や障害福祉のサービスを使わない、使えないケースが多い。
夜間に大声で騒ぐため、施設を探しても「空きがない」と言われ、病院にも「騒いでうるさい」と拒まれる。施設に預けて体調が悪化するのが不安だったり、介護が必要な本人にサービスを拒否されたり...。

取材の過程で、残念なことに加害者が自殺してしまっていたケースも紹介されている。
「介護疲れによる殺人や心中の加害者は刑事裁判でその罪を裁かれるが、その後、継続してカウンセリングを受けたり、行政機関からフォローされたりすることはまずない」。

取材チームがもうひとつ気づいたのは、「男性の方が介護で追いつめられやすいのではないか」ということだった。
悲劇には至っていないが、友人や知人に介護のことは相談していない、仕事と同じように計画性を持とうとして失敗するなど、男性介護者の経験も紹介している。

「ヤングケアラー」とも呼ばれる若い介護者は、離職して経済的に苦境に陥っても、就労を求められて、生活保護を利用することができない。
「老障介護」では、重度の重複障害のある4万3000人のうち、約7割の2万9000人が自宅で家族らの介護を受けて暮らしているという指摘がある。

介護保険制度では在宅サービスを利用する人が8割を占める。
「大介護時代」を迎えた日本では、「望むと望まざるとにかかわらず、在宅介護が当たり前の時代になっているのだ」。

第4章には取材チームが情報サイト「ケアマネジメント・オンライン」に協力を求めたケアマネジャーへのアンケートも紹介されている。
ケアマネジャーの指摘のなかでは、「ぎりぎりの収入しかない世帯では、特に介護者に負担が集中している」という回答に留意したい。
家族介護者のアンケートでは、家族を殺したいと思ったりした経験があるとの回答が2割あり、7割は介護の限界を感じたことが紹介されている。
「デイサービスに行く週2日だけが唯一の休み」、「施設からベッドが空くのは数年先と言われた」、「介護ヘルパーさんは短時間で帰ってしまう」、「核家族化してしまったこの国で、今さら『ご近所で助けあって』というのは机上の空論ではないか」...。
政府や財務省、厚生労働省、社会保障審議会、そして、全世代型社会保障改革検討会議のメンバーにも読んでもらいたい一冊。

(毎日新聞大阪社会部取材班著/新潮文庫/550円+税)