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BF127 『介護職がいなくなる』
介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか

社会保障審議会の委員には、福祉系の大学教授などの参加が結構ある。
介護労働者の離職率が高まるなか、なぜ、福祉系の教師が教え子の労働環境の改善を訴えることがないのか、とても不思議だった。
ようやく、教え子の未来を問う問題提起が登場したともいえるのが本書。

人材確保が叫ばれながら介護労働者の不足が続き、有効な対策も出てこない。
特に在宅サービスの主力であるホームヘルパーが高齢化し、後が続かない。
ホームヘルパー不足が慢性化しているため、ケアマネジャー複数の事業所のヘルパーを組みあわせた「綱渡り」的な調整をするしかない。
特に休日の支援が困難になっているという。
ホームヘルパーは、年々高齢化しており、「少なくても10年以内には、約3割程度のヘルパーは引退すると予測されています」。

施設サービスをみれば、介護職員の不足から、特別養護老人ホームやショートステイの受け入れができない。
著者らが実施した特別養護老人ホームのアンケート調査では、深刻な人手不足により、部屋は空いていても「休眠(空床)」せざるを得ないことが明らかになっている。

これらの課題になぜ、対応できないのだろうか。
理由のひとつとして、「(介護人材不足を)公にしてしまうと、労働環境が厳しいと思われ、ますます介護業界への応募が少なくなり、人手不足が深刻化して負のスパイラルに陥ってしまいます」という自粛の構造が紹介されている。

また、職員不足は「質」の低下を招く。
高齢者虐待防止法にもとづく、虐待事例は2006年と2017年度では9倍になっているという。
介護施設も増加しているので、件数の増加はしかたがない面もあるが、「このデータは公式に判断されたもので、明るみに出ていないケース」が含まれていると推察する。

厚生労働省による介護職員の虐待事例報告では、虐待の背景のトップは「教育・知識・介護技術等に関する問題」と抽象度が高い。
著者は、ここに、介護労働者が離職する理由として挙げる「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」との共通項を見出す。

職場の管理職の「介護理念」が、「組織優先的・管理的」なのだという。
特に、認知症高齢者の場合、暴力行為や暴言などがあり、介護労働者が被害にあうことがある。
利用者や家族による「パワハラ」、要介護者や同居家族、そして職場の同僚による「セクハラ」もある。
介護労働者のほうもハラスメント被害に会うのだが、ここに被害を「『かわす』のも対人技術の一環である」という、「中間管理職による二次被害」が起こるのだという。
いまの中間管理職は「背中を見て仕事を覚える」時代からキャリアを築き、「いじめ」「パワハラ」ともいえる養成・指導が当然と考えているふしがあるそうだ。
表にまとめられている「介護離職を助長させる不適切な中間管理職類型」は参考になるだろう。

外国人労働者の雇用は「現場で一人前として養成・育成されことが条件」であり、AIや「介護ロボットけの導入による業務負担の軽減は部分的、限定的だという。

病院の削減や入院期間の短縮により、要介護高齢者の増加とともに、在宅を中心に介護を必要とする人たちが急膨張すると予測されている。
同時に少子高齢化で労働人口が減少するなか、人材不足は加速しかねない。
介護労働者を確保するには、中間管理職を再教育するなど「介護職の指導体制」を統一することが必要と説く。

(結城康博著/岩波ブックレット/620円+税)