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2019.10.16 「介護保険についての要望書」を国会議員に提出しました
2019.10.16 「介護保険についての要望書」を国会議員に提出しました

10月16日、介護保険ホットライン企画委員会と介護労働ホットライン実行委員会は、「介護保険についての要望書」を全ての国会議員(衆議院議員465人、参議院議員245人)に渡しました。


国会議員のみなさま

介護保険についての要望書

2019年10月16日
介護保険ホットライン企画委員会 共同代表 小竹雅子、小島美里、林洋子
介護労働ホットライン実行委員会 共同代表 井堀哲、大江京子、藤澤整

 「介護保険ホットライン企画委員会」は首都圏の市民活動団体で、2006(平成18)年から介護保険制度について、利用者、介護者など広く市民の声を集める電話相談を開設しています。「介護労働ホットライン実行委員会」は、弁護士を中心に、2013(平成25)年から電話相談「介護労働ホットライン」を開設しています。
 現在、社会保障審議会で来年の通常国会に提出することを目指して、介護保険制度の見直しが検討されています。
 8月末、厚生労働省が示した論点(「今後の検討事項」)は多岐にわたりますが、その基調は一貫して「給付削減と負担増」であり、被保険者の中でもとりわけ「軽度者」(要支援1、2、要介護1、2)の切り捨てと在宅サービスを削減する方向が際立っています。
 このような「見直し」の検討は、介護保険制度の根幹を揺るがし、高齢者の尊厳ある生活を破壊するだけでなく、介護離職など現役世代にも深刻な影響を及ぼすものといえます。
 今、国民の多くが将来に不安を感じています。政府に最も望む施策が社会保障制度の充実であることは各種世論調査の結果からも明らかです。
 かかる観点から、下記のように要望いたします。

【記

要望1. 要介護1、2の認定者への給付を地域支援事業に移すことに反対します。
・認定者の個別の状況や生活実態を把握することなく、「要介護度」のみで「軽度者」と判断するのを撤回してください。
・要支援認定者(要支援1と2)への地域支援事業への移行の影響も充分に把握しないまま、さらに要介護1と2の認定者への給付を削減することに反対します。
・要支援認定者を含めて、認定を受けた人の在宅生活に不可欠な「生活援助サービス等」へのさらなる給付の充実を検討してください。

要望2. ケアマネジメントの10割給付を維持することを求めます。

要望3. 施設サービスへの補足給付のさらなる充実を求めます。

要望4. 利用者負担の検討には、実態調査にもとづく合理的な見直しを求めます

詳細説明

要望1. 要介護1、2の認定者への給付を地域支援事業に移すことに反対します。

 厚生労働省が社会保障審議会介護保険部会に示した「給付と負担」には、「(5)軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方」があります。
 ここで「軽度者」とされているのは、要介護1と2の認定を受けた人です。
 2014年の介護保険法改正により、要支援1と2の認定を受けた人への訪問介護と通所介護は給付からはずされ、地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業の介護予防・生活支援サービス事業)に移行しています。
 今回は要介護1と2が新たに「軽度」と呼ばれていますが、特に介護が必要になる理由のトップである認知症の人は、要介護1と2の段階で行動症状が多発して、ひとり暮らしや高齢夫婦世帯での在宅介護が困難になる時期となります。

認定者の個別の状況や生活実態を把握することなく、「要介護度」のみで「軽度者」と判断するのを撤回してください。

 すでに今年6月、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2019」(以下、骨太の方針2019)では「新経済・財政再生計画に基づき、医療・介護改革を着実に推進し社会保険料負担の伸びを抑制」するとしています。
 「骨太の方針2019」が示した「新経済・財政再生計画」(経済財政諮問会議)では、「軽度者に対する生活援助サービスやその他の給付について、地域支援事業への移行を含めた方策について、関係審議会等において第8期介護保険事業計画期間に向けて検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずる」としています。
 「骨太の方針2019」が求める地域支援事業への移行は、すでに要支援1と2の認定を受けた人に対して実施されています。移行時には、厚生労働省がガイドラインを策定し、市区町村が「多様な提供主体」に事業を委託することが期待されました。ところが、現状では従来の指定サービス提供事業所が委託を受けるケースがほとんどという状況です。
 「多様な提供主体」の事業参入が進まないだけでなく、従来の介護報酬に比べて委託費が低いため、新規の利用者は受け入れない事業所があるだけでなく、第7期(2018~2020年度)を限りに撤退を予定しているところもあります。

要支援認定者(要支援1と2)の地域支援事業への移行の影響も充分に把握しないまま、さらに要介護1と2の認定者への給付を削減することに反対します。

 また、「生活援助サービス等」とありますが、訪問介護(ホームヘルプ・サービス)には生活援助、身体介護、通院等乗降介助とメニューがわかれています。
 第7期の介護報酬改定では、訪問介護員(ホームヘルパー)の介護職員初任者研修(旧・訪問介護員養成研修)が分割され、生活援助を専門とする短時間の「生活援助従事者研修」が設けられました。
 しかし、訪問介護では、調理に続いて食事介助と後片付け、排せつ介助に続いて洗濯など、特に生活援助と身体介護は一体的に提供することが必要です。
 訪問介護のなかで生活援助だけを「生活援助サービス等」として、あたかも調理や洗濯、買い物など暮らしを支えるサービスが不要であるかのような論点提示には、家事労働に対する偏見、軽視を感じずにはいられません。
 生活援助を含む訪問介護の抑制は、ひとり暮らし高齢者や高齢夫婦の生活を圧迫するだけでなく、働く介護者の「介護離職」を加速させる危険性が高いものです。
 また、訪問介護員の高齢化は著しく、人材不足が拡大する可能性が高い状況にあります。

要支援認定者を含めて、認定を受けた人の在宅生活に不可欠な「生活援助サービス等」へのさらなる給付の充実を検討してください。

要望2. ケアマネジメントの10割給付を維持することを求めます。

 「給付と負担」の「(4)ケアマネジメントに関する給付の在り方」について、「骨太の方針2019」が示した「新経済・財政再生計画」では、「介護のケアプラン作成に関する給付と負担の在り方について、関係審議会等において第8期介護保険事業計画期間に向けて検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずる」としています。
 財政制度等審議会財政制度分科会でも今年4月、「利用者自身が自己負担を通じてケアプランに関心を持つしくみとしたほうが、サービスの質の向上につながるだけでなく、現役世代の保険料が増大する中、世代間の公平にも資するのではないか」と提案しています。
 ケアマネジメント(介護予防支援、居宅介護支援)は、介護保険のサービスが必要と認定された人がケアプラン(サービス利用計画)を作る相談支援のため、地域包括支援センターの職員や居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)が担当しています。
 介護保険のサービスがはじまって以来、「要介護者等が積極的にケアプランの作成を利用できるよう」にケアマネジメントは10割給付とされ、他のサービスとは異なり、利用者負担がありませんでした。
 ケアマネジメントに利用者負担が導入された場合、認定されたにもかかわらず、「ケアプランの作成」に消極的になり、介護保険のサービスにたどりつけない人が増える可能性があるということです。
 介護保険制度では、介護保険料を払う被保険者であるだけでは、サービスを利用することができません。認定(要支援認定、要介護認定)を受けてはじめて、サービスを選ぶ権利、利用する権利、すなわち「受給権」を得ることができます。
 介護保険料を払い、認定を受けたにもかかわらず、利用者負担が発生することにより、サービスの利用に消極的になる人が出るのは、制度の根幹に関わる重大な問題です。

認定を受けた人が必要なサービスを利用するために、ケアマネジメントへの10割給付を維持することを求めます。
要望3. 施設サービスへの補足給付のさらなる充実を求めます。

 「給付と負担」の「(3)多床室の室料負担」について、「骨太の方針2019」が示した「新経済・財政再生計画」では、「在宅と施設の公平性の確保の観点等から、介護の補足給付の在り方について、その対象者の資産の実態調査等を行い、関係審議会等において第8期介護保険事業計画期間に向けて検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずる」と提案しています。
 補足給付(特定入所者介護サービス費)は、2004年の介護保険法改正で、施設サービス(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養病床のほかショートステイを含む)の居住費・食費が給付からはずされ、利用する人の全額自己負担になったことにともない、低所得の人でも安心して施設サービスを利用できるように、金銭的支援として新設されました。
しかし、補足給付に福祉的性格があることを理由に、2014年の介護保険法改正では、支給条件が、①預貯金等(2015年8月から実施)、②配偶者の所得(2016年8月から実施)、③非課税年金を勘案するとされました。
今回はさらに、現行の預貯金等に係る補足給付の基準も含めて、支給条件の更なる見直しを検討するとしています。
 しかし、支給条件を適用するには、保険者である市区町村が補足給付の対象者の資産を把握する必要があり、事務負担も大きいものがあります。そして、市区町村からは資産把握の難しさと対象者の把握の不均衡性が報告されており、2014年の改正がもたらした効果すら全く不明と言わざるを得ない状況にあります。
 今回は資産把握に不動産の勘案を追加するとの意見になりますが、宅地等の不動産は、認定を受けた高齢者が生活をしていくための基盤です。また、安易に不動産を手放すことを勧める環境は、詐欺被害の助長を招く恐れも懸念されます。さらには、資産は家族が介護するための後ろ盾の意味もあります。
なによりも、一定の資産がある事を理由に一律に給付の対象から外すことは、認定を受けた人の不安を拡大し、施設サービスを利用する機会を狭め、介護保険制度の普遍性を著しく損ねるものです。

認定を受けた人が必要な施設サービスを利用できるように、補足給付を充実させることを求めます。
要望4. 利用者負担の検討には、実態にもとづく合理的な見直しを求めます

 「給付と負担」の「(7)『現役並み所得』、『一定以上所得』の判断基準」について、「骨太の方針2019」が示した「新経済・財政再生計画」では、「医療・介護における『現役並み所得』の判断基準の見直しについて、現役との均衡の観点から、早期に改革が具体化されるよう関係審議会等において検討」としています。
 また、財政制度等審議会財政制度分科会では「介護保険サービスの利用者負担等について、所得・資産に応じた負担となるよう見直し」として、「利用者負担の原則2割とすることや利用者負担2割に向けてその対象範囲を拡大するなど、段階的に引上げ」を提案しています。
介護保険制度創設時には、所得にかかわらず1割の利用者負担、すなわち「応益負担」とされていました。
 しかし、2014年の改正では、「一定以上の所得」がある人は2割負担と見直しが行われ、2015年8月から自己負担は2倍になりました。
 2017年の改正では、2割負担(一定以上所得者)の認定者のうち、「医療保険の現役並み所得者」はさらに3割負担に引き上げになり、2018年8月から実施されています。
 厚生労働省の調査(老人保健健康増進等事業)では、2割負担あるいは3割負担になってサービスを減らした利用者の3分の1以上が、「介護に係る支出が重い」ことを理由に挙げています。
 利用者負担の増加により、サービス利用の抑制が生じていることは明らかです。なお、これらの調査は、新規の利用者が対象になっていないため、経済的な理由でサービスを断念したり,サービス量を最初から減らしているケースは把握されていません。
 そもそも,「応益負担」を約束してスタートした介護保険制度が、後付けで、段階的に所得による負担割合を引き上げているのは,その正当性が問われかねません。
 また、「給付と負担」の資料には、「(6)高額介護サービス費」があります。2割負担、3割負担になっても高額介護サービス費が給付されるため、単純に利用者負担が2倍、3倍になるわけではないという説明が行われています。しかし、高額介護サービス費の負担限度額を引き上げれば、実質的に利用者負担を引き上げることが可能になります。
 「現役並み所得」、「一定以上所得」、そして高額介護サービス費の判断基準見直しにあたっては,単なる統計的な数字ではなく,認定を受けた高齢者のいる世帯の実生活をきちんと調査することが大前提となります。

認定を受けた人の全国実態調査にもとづき、合理的な利用者負担の設計をすることを求めます。
補足 介護保険制度と「健康寿命の延伸」について

 厚生労働省が示した介護保険法改正をめぐる「今後の検討事項」では、1番目に「介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)」が挙げられています。
 今年9月、政府が設置した全世代型社会保障検討会議の第1回資料にも「公的保険制度における介護予防の位置付けを高める」とあります。
 介護が必要になった人たちは、「介護予防」や「健康寿命の延伸」の対象にはなりません。また、現在は「健康」な高齢者もいずれは、介護が必要な時期がおとずれます。
 介護保険は社会保険制度として、介護が必要になる「介護事故」にあった場合に、給付を行うことが基本です。
 「介護予防」は地域支援事業に位置づけられ、財源には介護保険料も投入されています。2005年度の地域支援事業の新設、そして「充実」とともに、特に在宅介護への給付が削減傾向にあることは看過できない問題です。
 2014年に発効した「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)第17条には、「全ての障害者は、他の者との平等を基礎として、その心身がそのままの状態で尊重される権利を有する」とあります。
 今年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」では、「全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、努力を尽くす決意を新たにするものである」とあります。
 介護を必要とする人は「要介護者」であるとともに「障害者」でもあり、「そのままの状態で尊重される権利」があります。
 政府、行政ともに最優先すべき課題は「予防」ではなく、「給付」の充実です。
 介護保険制度には、介護が必要になった人が「そのままの状態で尊重される権利」を認め、必要な給付を充実させることを最優先課題にするよう求めます。

以上