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BF131 『超孤独社会 特殊清掃の現場をたどる』
BF131 『超孤独社会 特殊清掃の現場をたどる』

「特殊清掃」は、ダメージを受けた部屋などの原状回復を手がける作業全般を指す。
その多くは「孤独死の現場」で、「梅雨明けぐらいから一気に増えて、暑さが引く9月頃に収束」する。
孤独死は年間3万人、孤立状態は1000万人と推計されている。
孤独死の増加とともに、特殊清掃の需要は「プチバブル」状態にあるという。
著者は特殊清掃業者に同行し、果敢に惨状をみつめ、特殊清掃の担い手とともに「故人の生きづらさ」を発見していく。

糖尿病で心臓発作で亡くなった65歳の男性は、トイレが壊れ、エアコンのない部屋で暮らしていた。
ごみ屋敷になったきっかけは、分別義務化に対応できなかったのが原因と推測された。
ごみの撤去、消毒などの作業に1週間が費やされた。
55歳の男性は、アメリカでも仕事をこなすサラリーマンだったが、仕事上のミスからパワーハラスメントに会い、15年間、退職金と貯金に頼り、ひとりマンションの一室で引きこもっていた。
20年ぶりに再会した妹に励まされ、暮らしを再建する意欲を抱いた矢先、エアコンの壊れた部屋で亡くなった。

特殊清掃人はまず、作業前に近隣住民や大家への挨拶を欠かさない。
そして、臭気が外に漏れないように、閉め切った部屋で作業をする。
著者は目をそらすことなく、過酷な現場をいくつも教えてくれる。
特殊清掃の見積もりも、はじめて知った。

孤独死社会をサポートする周辺の人たちへのインタビューもある。
「警察が扱う事案の中で、孤独死は多いよ」と語る警察OB。
行政の委託を受けた葬儀社が火葬した後、引き取り手がない「漂流遺骨」を共同墓地に引きとるNPO。
事故物件を抱える不動産会社社長。
親族の孤独死を経験して支援活動をばじめたボランティア...。
なかでも、高齢者向け「終活ビジネス」の存在には驚かされた。
軋轢を抱えた家族に代わり、"レンタル家族"になり「介護施設選びから葬儀まで」支援するという。
スタッフは「私たちは民生委員やケアマネにも関われない部分のクッション」と語る。

孤独死に至るケースの多くは、親子関係の確執、離婚による家庭崩壊など「家族関係の消滅」が引き起こすセルフネグレクトが大きな原因だ。
特殊清掃のプロフェッショナルは、死後に備えた「生前整理」ではなく、健康で自立した生活ができるように部屋を片づける「福祉整理」ができないかと考える。
著者も「問題は1人で亡くなることではなく、そのもっと前の段階にある」と指摘する。

思い出したのは、2006年度から介護保険法改正で新設された介護予防事業(地域支援事業)だ。
この事業の「特定高齢者施策」(のちに二次予防施策)のメニューでは、マシーンによる筋力トレーニング(運動器の機能向上)が脚光を浴びたが、「閉じこもり予防・支援」と「うつ予防・支援」というもあった。
厚生労働省の「介護予防」のページで報告書をみると、2006年度の全国の対象者は、「閉じこもり予防・支援」が3,133人、「うつ予防・支援」が2,500人だ。
2011年度は、「閉じこもり予防・支援」が2,329人、「うつ予防・支援」が2,348人だ。
6年間実施して、対象者はわずかなうえに、減っていた。

政府が掲げる「地域共生社会」は、地域包括支援センターや社会福祉協議会に期待しているが、財源も人材も増やさず、人びとの善意に依存するのでは、限界が目にみえている。
2020年の通常国会には、介護保険法の改正を含む「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」が提出される予定だが、美しい言葉で繕っても、現実には到底、追いつかないことを痛烈に教えてくれるルポルタージュだ。

(菅野久美子著/毎日新聞出版/1600円+税)