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BF147 『女性たちの保守運動』
BF147 『女性たちの保守運動 右傾化する日本社会のジェンダー』

高価な本だが、「草の根保守運動」に参加する女性がテーマということで、気になったので読んでみた。
というのも、障害児の就学問題から市民活動に関わってきた者としては、介護の問題も含めて「暮らしを守れ」という主張は、そもそも「保守」的な活動ではないかと思うところがあるからだ。
これは『ポピュリズムとは何か ― 民主主義の敵か、改革の希望か』(水島治郎著、中公新書)を読んだときにも、薄々思ったこと。

とはいえ、本書で紹介されているのは、1999年に制定された男女共同参画社会基本法に反対する全国組織とか、在日韓国・朝鮮人の人たちを排除しようとする「在日特権を許さない市民の会」(略称・在特会)など、女性の権利を阻んだり、「外国人」を追い出そうとする排外的、差別的な活動だ。
これまで関心を持っていなかったせいもあるが、2000年代以降、「行動する保守」に連なる女性たちの活動が活発になっているのだと教えられた。

著者は「女性たちの保守運動が成立している要因」について、①保守運動団体に所属する女性はどのような位置づけなのか、あるいは運動内で抑圧される状況があるのではないか、そして、②「すべての女性が生きやすい社会の実現をめざし進んできたフェミニズム」に女性が反対する理由はなにか、というふたつのテーマにもとづいて分析する。

「戦後日本社会における保守運動の系譜」(第1章)では、「戦争犠牲者遺族同盟」から分かれた「日本遺族会」がある。「生活に困窮する戦没者妻らの経済的境遇の改善」からスタートした経緯は興味深い。
敗戦後は夫や息子が戦死して生活が困窮する「未亡人」や「苦労する母親」が中心テーマで、1970年代になると「遺児世代」の発言が増え、併行するように自民党の支持基盤として発展していく。
靖国神社法案、元号法制化運動から「日本会議」の結成まで、コンパクトに教えてもらえる。

1970年代から台頭したアメリカのERA(男女平等憲法修正条項)の批准をめぐる女性による反対運動も紹介される。
ちょうど、テレビドラマ『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』で、リーダーのフィリス・シュラフリー(1924-2016)をケイト・ブランシェットが楽しそうに演じているのを観たばかり。
ERAの批准を求める全米女性機構(NOW)などに反対し、専業主婦の保護された地位を守り、中絶や同性愛に反対するキリスト教的価値観を主張する立場だが、シュラフリー本人が軍事・外交面で極右思想の持ち主であることに、びっくりしていたところだ。

本書に戻れば、日本の男女共同参画反対運動の動機として、3点が挙げられている。
ひとつは、家父長制型家族を理想としていること。
そして、「主婦」の既得権益を守る(配偶者特別控除の廃止や年金の第三号被保険者制度の見直しに反対する)。
もうひとつは、政治的な考えというより、長期不況による不安定な雇用や社会保障抑制などへの「不安」から目をそらすため、男女共同参画やフェミニズムを仮想敵にしているのではないかということ。
地方議会における男女共同参画反対運動の具体的な「成果」も紹介されている。
都道府県では、千葉県が唯一、男女共同参画条例を持たないことをはじめて知ったが、鹿児島県や徳島県、山口県宇部市などでも条例の運用に制限をかける請願が採択されているそうだ。
なかでも、条例制定をめぐる攻防が激しかったという愛媛県の女性たちの活動がくわしく紹介されている。

「慰安婦」問題では、読むのがつらくなる「日本女性」たちの活動が取りあげられる。
著者は「行動する保守」の女性団体の発言を整理して、民族差別と性差別がはらむ「女性の人権」に対する矛盾を指摘する。
また、女性団体のひとつが運営する料理教室も調査し、料理に忍ばせた「嫌韓・嫌中・愛国心」をチェックしている。この作業はとても神経を使ったのではないかと思うが、ルポルタージュのように印象に残った。

「保守運動において女性たちが積極的に運動を担うようになったのは、保守運動史において新しい現象」とのことだが、本書が教えてくれる「草の根」の女性たちには、ある種の「生きづらさ」があるようだ。
彼女たちは、性別役割分業にもとづく家族を理想としている。しかし、「家庭内ケア労働」への評価が低いなかで、「母」『妻」「嫁」「主婦」として生きることに閉塞感や困難を感じているという。
NHKスペシャル「銃後の女性たち~戦争にのめり込んだ"普通の人々"~」は、1937年から始動し、約1000万人もの女性が参加した「国防婦人会」の活動を紹介していたが、選挙権もなかった女性たちにとって、社会参加できるほとんど唯一の機会でもあったことを教えてくれたが、同じような構造あるのかも知れない。

「ケア・フェミニズム」や「ドメスティック・イデオロギー」という言葉は初めて知ったが、難しい問題提起とはいえ、介護の問題と密接なテーマであることを感じた一冊。

(鈴木彩加著/人文書院/4500円+税)