2025.10.07 介護保険制度の見直しについての厚生労働省の回答
現在、社会保障審議会介護保険部会で介護保険制度の見直しについて、年末までのスケジュールで審議が続いています。
10月7日、いちき伴子衆議院議員の質問に対する厚生労働省老健局のレクチャー(通称・議員レク)の内容を報告します。
1.介護保険証について
2.要介護認定について
3.「サービス提供体制」について
4.「地域共生社会」について
5.「高齢者・介護関連サービス産業」について
1.介護保険証について
9月8日、第124回社会保障審議会介護保険部会の「介護情報基盤について」の審議で、「介護保険被保険者証のペーパーレス化の方向性」が示された。
現在、第1号被保険者には「介護被保険者証については、65歳到達時に全被保険者に対して交付」しているが、「要介護認定申請時に紛失しているケースがある」という理由で、「要介護認定申請時に介護被保険者証を交付する対応に変更してはどうか」とある。
[1-質問1]
介護保険証は健康保険証とともに、被保険者であることを証明するものと考える。
厚生労働省の介護保険証への定義を教えてもらいたい。
[1-質問1-回答]
被保険者が交付を求めた場合に交付することになっている。
65歳以上については介護保険上の取り決めではなく、自治体の運用上、一斉交付しているところが多い。
一斉交付していない保険者は把握していない。
[関連資料]
第十二条 3 被保険者は、市町村に対し、当該被保険者に係る被保険者証の交付を求めることができる。
[1-質問2]
65歳到達時に交付しないということは、被保険者であるかどうか本人が確認できないことであり、要介護認定の申請に最初からたどりつけない可能性が高い。
現実に、40~64歳の第2号被保険者は、「特定疾病」であることが、申請要件になっているが、認定者にしめる割合は2%にも届かない。
介護保険証を保持していないことが、申請にたどりつかない要因とも考えられる。
被保険者の認定申請への権利意識、理解度について、厚生労働省の認識を教えてもらいたい。
[1-質問2-回答]
(被保険者に認定を申請する権利が)どのくらい浸透しているかまでは把握できないが、申請要件については、厚生労働省のホームページや広報パンフレットなどで周知をはかっている。
今後も第2号被保険者を含めて、ていねいな広報、周知をはかっていく。
[関連資料]
[1-質問3]
65歳到達時に介護保険証を交付しない理由として、「要介護認定申請時に紛失しているケース」があるとされているが、認定申請時に紛失している件数、再交付している件数、保険者である自治体の再交付にかかる経費について、教えてもらいたい。
[1-質問3-回答]
(介護保険証の)再交付の件数は把握していないが、保険者へのヒアリングなどでは、紛失などで経費や手間がかかることを把握している。
これを防ぐことで、経費の削減ができると考えている。
[1-質問4]
介護保険証の交付をしない場合、被保険者の要介護認定を申請する権利について、どのように周知、徹底するのか教えてもらいたい。
[1-質問4-回答]
申しあげたように、厚生労働省のホームページや広報パンフレット、地域包括支援センターを通じて情報提供をしていく予定。
2.要介護認定について
6月2日、第121回社会保障審議会介護保険部会の「要介護認定について」で、「要介護認定における一次判定の見直し」の報告が行われた。
対応方針として、「在宅で介護保険サービスを利用する方の介護の内容が、現行の一次判定に反映されていない旨の指摘を踏まえ、現行の要介護認定における一次判定の妥当性の検証のため、在宅介護等のケア時間及びケア内容の調査を実施する」、「具体的には、2025年度に在宅、通所などの介護保険サービスの利用者について、ケア時間及びケア内容の調査を実施し、その結果を介護保険部会に改めて報告することとする」とある。
[2-質問1]
介護保険制度は2000年度から施行されているが、なぜ、25年もの間、「現行の一次判定」に「在宅で介護保険サービスを利用する方の介護の内容」が反映されていなかったのか。
厚生労働省の事情、認識を教えてもらいたい。
[2-質問1-回答]
2000年度の施行にあたって、施設利用者の調査をもとに認定がはじまった。
2000年度、2006年度に在宅の調査は実施したが、一次判定への反映には至らなかったという経緯がある。
家族の介護の部分でばらつきがあって、データを生かすことができなかった。
[関連資料]
要介護認定調査検討会(委員長・開原成允 国際医療福祉大学 大学院長)
開催:2006年10月10日~2008年11月15日
[2-質問2]
現行の一次判定は、施設に入居する高齢者3,519人(平均年齢84.1歳)に対する”介護時間”を調べた「高齢者介護実態調査」にもとづく。
調査対象者の入居施設は、一時滞在医療施設である老人保健施設が51%、生活施設である特別養護老人ホームが31%と報告されている。
今回、「在宅介護等のケア時間及びケア内容の調査」をするにあたり、「2025年度に在宅、通所などの介護保険サービスの利用者」を対象にするとしているが、要支援認定者(要支援1・2)、要介護認定者(要介護1~5)ともに対象にするのか、教えてもらたい。
[2-質問2-回答]
2001年、2007年の調査は家族に依頼した。今回は調査員に入ってもらう予定だが、介護する家族などによる”介護時間”も対象と想定している。
調査には同意が必要だが、調査員が家に入って調査をおこなう予定としている。
[2-質問3]
「ケア時間及びケア内容」だが、①ホームヘルプ・サービスとデイサービスの職員による”介護時間”が対象になるのか、②介護する家族などによる”介護時間”も対象とするのか、③調査対象者への身体的ケアだけでなく、生活支援全体を調べるのか、教えてもらいたい。
[2-質問3-回答]
金銭管理や生活支援も含めて家族の調査もおこなう予定。
調査対象者への身体的ケアだけでなく、生活支援全体も調べる。
2006年度の調査を踏襲した形で実施することを予定している。
[2-質問4]
「高齢者介護実態調査」を担当した「要介護認定調査検討会」では、1人の委員に調査結果分析が任され、他の委員による客観的な検証はなされなかったのではないかという指摘がある。
厚生労働省の説明を求めたい。
[2-質問4-回答]
「要介護認定の見直しに係る検証・検討会」においては、全委員が精査し客観的なデータとなっている。
[関連資料]
要介護認定の見直しに係る検証・検討会(座長・田中滋 慶應義塾大学教授)
開催:2009年4月13日~2010年1月15日
[2-質問5]
スケジュールは「2025年12月~2026年2月 :調査実施」、「2026年3月 :結果とりまとめ」、「2026年4月以降 :介護保険部会にて結果を報告する予定」となっているが、①「要介護認定調査検討会」を設置するのか、②構成員や検討会の公表など調査設計過程を情報公開するのか、③利用者本人や家族介護者など当事者を参画させるのか、教えてもらいたい。
[2-質問5-回答]
2006年度のような検討会は想定していない。
要介護認定の検証を行うところは保険部会が入るが、調査自体は外部委託で行う予定。
2026年4月以降、厚生労働省で調査を実施したうえで、介護保険部会に報告を予定している。
3.「サービス提供体制」について
9月8日、第124回社会保障審議会介護保険部会に、「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築」が示された。
「論点① 地域の類型の考え方」
訪問介護について、現行のサービス提供回数に応じた出来高報酬と利用回数に左右されない月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択可能とするような枠組み
[3-①-質問1]
介護保険制度は、被保険者は全国どこに暮らしていても、必要に応じて全国共通あるいは全国一律の給付を提供することが原則と認識している。
全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」と3分類し、給付も分割する理由について、簡潔に説明してもらいたい。
[3-①-質問1-回答]
介護保険の基本的な考え方はご指摘のとおりだが、いまのところ、「中山間・人口減少地域」に限り、人員配置基準を中心に柔軟化を図るもので、全国を3分割するわけではない。
介護保険部会でどのように弾力化するかご議論いただいている。
2040年に向けて「中山間・人口減少地域」が増えていくが、市区町村ごとにどのような地域類型になるか検討していだたき、都道府県も関与するが、配置基準の弾力化を検討していくことを考えている。
[3-質問2]
「サービス需要の変化」だが、「人口減少地域」において指定事業所や介護労働者が減少する、すなわち「サービス提供事業所の需要」が減少するという意味なのか、教えてもらいたい。
[3-①-質問2-回答]
「サービス需要」は提供主体を指すものではなく、認定者、利用者のサービスへの需要が変化すると考えている。
認定を受ける確率は変わらないが、高齢化率は変化するので、人口減少地域は高齢者数が減少する局面になり、サービスを利用するパイが減るという認定をしている。
[3-①-質問3]
国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(令和 5(2023)年推計)』では、2020年から2050年にかけて、全国1,728市区町村(789市、東京23区、736町、180村)のうち、①総人口が5万人未満の市区町村数は1,205から1,317に増加、②総人口が5千人未満の市区町村数は283から482へ1.7倍増、③総人口が5千人未満の市区町村の全市区町村に占める割合は、2020年の16.4%から2050年には27.9%へと11.5 ポイント上昇と推計している。
3分類にもとづけば、今後、「人口減少地域」は拡大するという認識でいいか、教えてもらいたい。
[3-①-質問3-回答]
75歳以上は今後も増え、団塊ジュニアが2040年には75歳以上になる。
過疎地域は75歳以上人口も今後、減少していくと認識している。
サービスの質の確保が重要であり、職員の負担も検討しつつ、事業者間の連携などていねいに検討する必要があると考えている。
「論点② 地域の実情に応じたサービス提供体制の維持のための仕組み」
[3-②-質問1]
論点② には「管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和等」とあるが、これは3類型のうち「中山間・人口減少地域」に限るのか、全国を対象とするのか、教えてもらいたい。
[3-②-質問1-回答]
「中山間・人口減少地域」に限るが、今後増えていく「中山間・人口減少地域」に関してはまだ、正確には申しあげられない。
[3-②-質問2]
人材確保が困難という理由で、人員配置基準を緩和してもなお、給付を維持することが可能と考える理由を教えてもらいたい。
[3-②-質問2-回答]
居宅サービスについては基準該当サービスがあり、離島等相当サービスなど柔軟なサービス提供がある。
「中山間・人口減少地域」でサービス提供を維持するため、介護保険部会でご議論いただいている。
「論点③ 地域の実情に応じた包括的な評価の仕組み」
[3-③-質問1]
論点③には「訪問介護について、現行のサービス提供回数に応じた出来高報酬と利用回数に左右されない月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択可能とするような枠組み」とあるが、対象になるのは「中山間・人口減少地域」なのか、全国が対象なのか、教えてもらいたい。
[3-③-質問1-回答]
訪問介護をはじめとする訪問系サービスは移動時間やキャンセルなどの課題もあり、年間を通じて安定した提供をするため、「中山間・人口減少地域」を念頭に考えている。
出来高払いと定額払いを「選択可能」なのは、事業者になる。
[3-③-質問2]
訪問介護が出来高報酬から定額報酬に移行した場合の事業所のメリット、デメリット、および、利用者や介護者のメリット、デメリットを教えてもらいたい。
[3-③-質問2-回答]
介護保険部会では、定額報酬にみあったサービス提供にはチェック機能が必要というご意見もある。
なにかしら、新たなチェック機能が必要と考えている。
利用者にとって必要なだけサービスを提供できるメリットがある。
デメリットしては、選択肢が減ることはある。
[3-③-質問3]
厚生労働省「2026(令和8)年度厚生労働省所管予算概算要求関係」では、「社会の構造変化に対応した保健・医療・介護の構築」として、「訪問介護における人材確保のためのタスクシェア・タスクシフト推進支援事業」が盛り込まれている。
訪問介護については、事業所数は増えているが、ホームヘルパーの有効求人倍率は10倍を超える人材不足が継続しているが、厚生労働省は専門職としてのホームヘルパーを増やす抜本的な対策ではなく、介護助手や外注化を図ることで乗り切るつもりなのか、教えてもらいたい。
[3-③-質問3-回答]
2024年度報酬改定で加算を厚くする、補正予算でも人材確保の財源を用意している。
既存の人的資源を活用して、ホームヘルパーの専門性を活かしたサービス提供をしていきたい。
タスクシェア・タスクシフトは、ホームヘルパーと同行するのではなく、ボランティアや地域の資源の方に担える部分をやっていただくことを想定している。
[3-③-質問4]
同じく概算要求事項には、「中山間・人口減少地域等に存在する通所介護事業所等の多機能化(訪問機能の追加)の推進」がある。
厚生労働省は2023年8月30日、第222回社会保障審議会介護給付費分科会に「新しい複合型サービス(地域包括ケアシステムの深化・推進)」として「複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を組み合わせて提供する新たな複合型サービスを創設」を提案した。
社会保障審議会で「新たな複合型サービス」が了承されたのか、確認させてもらいたい。
[3-③-質問4-回答]
2024年の審議報告では、引き続き検討となり、2040年のサービス提供体制の在り方検討会でも提案されている。
今後、ホームヘルプ・サービスに参入するデイサービスのために概算要求をしている。
「論点④介護サービスを事業として実施する仕組み」
給付に代わる新たな事業(新類型)として、介護保険財源を活用して実施できる仕組み
[3-④-質問1]
論点④の「給付に代わる新たな事業(新類型)として、介護保険財源を活用して実施できる仕組み」とあるが、現行の地域支援事業のほかに、新事業を作るつもりなのか、教えてもらいたい。
[3-④-質問1回答]
「中山間・人口減少地域」について、市町村の実情に応じて実施することを想定し、介護保険部会でご議論いただいている。
「中山間・人口減少地域」で単独サービスが困難な場合、新たなサービス提供体制として検討しており、具体的なことは今後の調整になる。
基本的には要介護認定者が対象で、「中山間・人口減少地域」と考えている。
サービス提供体制の確保が念頭なので、ときには要介護も対象に含まれる。
[3-④-質問2]
地域支援事業には、基本チェックリスト対象者のほか、要支援認定者(要支援1・2)を対象とするホームヘルプ・サービス(第1号訪問事業)、デイサービス(第1号通所事業)が総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)として組み込まれている。
要支援認定者は増加し続けているにもかかわらず、生活支援を行うふたつの事業の利用者は横ばいで推移している。
総合事業への対策を検討するのではなく、新事業を作ってなにをするつもりなのか、教えてもらいたい。
[3-④-質問2-回答]
総合事業は住民など地域の多様な提供体制で実施してるもので、新事業は地域の実情に応じた柔軟なサービスを提供するもので目的が異なる。
指定事業所が提供するかどうかは今後の検討になる。
4.「地域共生社会」について
[4-質問1]
「地域共生社会」と介護保険制度の給付、地域支援事業との関連について、財源も含めてわかりやすく説明をしてもらいたい。
[4-質問1-回答]
今年1月から「『2040年に向けたサービス提供体制等のあり方』検討会」でご議論をいただき、高齢だけでなく障害、生活困窮などの包括的な支援体制が重要であると「とりまとめ」をしている。
「地域包括ケアシステム」は高齢者福祉が対象だが、「地域共生社会」は分野横断的な構想になる。
「地域共生社会」は住民どうしの支え合いという概念が中心になり、地域支援事業の総合事業との関連が密接になると考えている。
5.「高齢者・介護関連サービス産業」について
6月30日、第122回社会保障審議会介護保険部会に、経済産業省の「高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会」の『取りまとめ(概要)』が報告された。
[5-質問1]
経済産業省の「(参考)高齢者・介護関連サービスの定義・範囲」では、「介護保険適用外」として、「家事」(家事代行など)、「移動」(外出支援等)、「見守り・緊急連絡」(定期訪問など)、「飲食・服薬」(食事・服薬支援等)、「買い物・物の運搬」(買い物付き添いなど)、「みだしなみ、排泄」(清拭・入浴、排泄介助 等)、「各種手続き」、「意思表明」(意思形成・表出支援等)などが列挙されている。
要支援認定、要介護認定を受けた認定者にとって、ホームヘルプ・サービス(第1号訪問事業、訪問介護など)、ケアマネジメント(介護予防ケアマネジメント、介護予防支援、居宅介護支援)など「介護保険適用」の定義・範囲となる項目はなにか、教えてもらいたい。
[5-質問1-回答]
訪問介護において、身体介護のほか、日常的な生活援助、通院乗降介助などが保険適用となっている。
[5-質問2]
経済産業省は「高齢者・介護関連サービス」の振興により、「公的介護保険財政及び介護人材不足対策への貢献」ができるとしているが、民間サービスは10割負担になり、低所得高齢者には利用できない。厚生労働省の見解を教えてもらたい。
[5-質問2-回答]
住み慣れた地域で暮らすためには、介護保険サービスが提供されることが大前提となる。
その上で多様化する高齢者のニーズについては、民間の力を借りていくことが望ましい。
以上
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