[介護労働者の賃上げ]
介護保険制度では、サービスを提供する事業所で働く人を「介護従事者」と呼ばれます。
「介護従事者」の職種は、「介護職員(訪問介護員)」ほか、医師、看護師、理学療法士など医療系も含めて19種になります。「介護職員(訪問介護員)」は、ホームヘルパーとデイサービスを含めた介護施設などの介護職員を指します。(厚生労働省『介護サービス施設・事業所調査』)
制度がはじまって以来、「介護職員(訪問介護員)」、つまり介護労働者は増え続けています。
しかし、第2期(2003~2005年度)マイナス4.2%、第3期(2006~2008年度)マイナス0.5%と、介護報酬の引き下げがあり、介護労働者の給与はベースダウンし、2007年度には離職率が22%まで上昇しました。
当時、月額給与は全産業平均に比べて、ホームヘルパーは14万円、介護職員は15万円も低い状況にありました(社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長・田中滋 慶応義塾大学名誉教授)第132回(2006.11.16)参考資料1「介護人材の処遇改善について」)。
2007年、厚生労働省老健局は「介護サービス事業の実態把握のためのワーキングチーム」を設置して、事業者団体にヒアリングを行いました。
そして、ワーキングチームは「介護報酬の水準のみでは根本的な解決にはつながらない」と結論づけ、課題は「サービス提供体制」と介護労働者の「キャリアアップ」にあるとして、賃上げの提言をしませんでした。
一方、国会では、介護労働者の給与を増やし定着を図るため、「介護職員処遇改善臨時特例交付金」と「介護職員処遇改善交付金」が、あいついでつくられました。
ふたつの交付金は、2008年9月から2012年3月までの3年半と限られていましたが、介護報酬とは別に、税金が投入され、介護労働者ひとり当たりの給与は、月額平均2.4万円の引き上げになったと報告されました。
なお、交付金による効果を確かめるため、2009年度から厚生労働省は『介護従事者処遇状況等調査』で、介護労働者の給与を、ようやく調べるようになりました。
2014年、厚生労働省職業安定局は「人材不足分野等における人材確保・育成対策推進会議」(座長・佐藤茂樹 厚生労働副大臣)を設置しました。
会議資料には、介護労働者は1年間に25万人が就職し、同時に22万人が離職し、差し引き3万人の増加というシミュレーションがしめされていました。そして、離職者のうち、介護分野での転職は4割にとどまり、残りの6割は「他分野に転職」し、1年間に13万人以上の介護労働者が退場することが想定されていました。
2008年以降、「人材確保」の危機が高まると、国会で交付金が作られ、交付金が終わった後は、給与水準を維持するため、介護報酬の「介護職員等処遇改善加算」で増額する、という政策が繰り返されています。
なお、「介護職員等処遇改善加算」は、介護労働者の給与に全額反映されるのではなく、「職場環境改善」や「他職種の給与」にも使われます。
現在、介護労働者の給与は、全産業平均より8.3万円低いとされ、20年前に比べれば、差額は縮小したともいえます(「賃金構造基本統計調査による介護職員の賃金の推移」)。
しかし、就職率は右肩下がりで、2024年の有効求人倍率は、全産業平均1.25倍に対して、介護職員3.28倍、ホームヘルパーは14.74倍で、「改善」には程遠いものがあります。
2025年11月、『介護職員賃上げ、最大月1.9万円支援』(2025年11月28日毎日新聞)という報道がありました。
これは、2025年度補正予算で、「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」(1,920億円)という交付金を用意し、2025年12月分から2026年5月分まで「賃上げ支援」をします。
「最大1.9万円」の内容は、「介護従事者に対する幅広い賃上げ支援」が1.0万円、「協働化等に取り組む事業者の介護職員に対する上乗せ」が0.5万円、「介護職員の職場環境改善の支援」を人件費に充てた場合は0.4万円です。
最低でも1万円アップなのかといえば、介護労働者は「常勤・月給」で計算するため、非常勤や時給で働く人は、さらに低い賃上げになる可能性があります(厚生労働省老健局「介護分野における医療・介護等支援パッケージ及び重点支援地方交付金の活用について」(2025.12.17事務連絡))。
そして、交付金が途切れる2026年6月以降、介護報酬の第9期(2024~2026年度)の期中改定(臨時改定とも呼びます)で「介護職員等処遇改善加算」を引き上げることが予定されています(社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長・田辺国昭 東京大学大学院法学政治学研究科教授)第252回(2025.12.26)資料1「令和8年度予算に関する『大臣折衝事項』について(報告)」)。
なお、介護報酬(2026年6月以降)では、「賃上げ支援1.0万円」の金額は同じですが、上乗せの明細が少し変わります。
「協働化等」に取り組む事業所で働く介護労働者は0.5万円だったのが、「生産性向上や協働化」に取り組む事業所に働く介護労働者に0.7万円になりました。
そして、「職場環境改善」を賃上げに使った場合の0.4万円がなくなり、「定期昇給」の見込み額0.2万円という計算になりました。
また、2026年度予算案にもとづく期中改定では、「処遇改善加算の対象外だった訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援等に処遇改善加算を新設する」ことになりました。
(岩波新書『総介護社会』再構成)
介護職員等処遇改善加算(2026年度予算案 2026年6月以降)
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厚生労働省老健局
〇社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長・田辺国昭 東京大学大学院法学政治学研究科教授)
第253回(2026.01.16)資料
資料1.2026(令和8)年度介護報酬改定について
介護職員等処遇改善加算の拡充1
介護従事者(常勤換算職員) 月1.0万円(3.3%)
生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員 月0.7万円(2.4%)
定期昇給 月0.2万円
(最大 月1.9万円)
介護職員等処遇改善加算の拡充2(新設)
訪問看護(1.8%)
訪問リハビリテーション(1.5%)
居宅介護支援・介護予防支援(2.1%)
参考資料1.介護報酬の算定構造
〇2026(令和8)年度の介護職員等処遇改善加算の取得に係る処遇改善計画書の提出期限について(2026.02.10事務連絡)
[関連資料]
財務省
〇2026(令和8)度社会保障関係予算のポイント
2026(令和8)年度介護報酬改定
・介護職員のみならず、介護従事者を対象に、幅広く月 1.0 万円(+3.3%)の賃上げを実現する措置を実施する。
・生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員を対象に、月 0.7 万円(+2.4%)の上乗せ措置を実施する。
※ 合計で、介護職員について最大月1.9 万円(+6.3%)の賃上げ(定期昇給 0.2 万円込み)が実現する措置。
・上記の措置を実施するため、今回から、処遇改善加算の対象について、介護職員のみから介護従事者に拡大するとともに、生産性向上や協働化に取り組む事業者に対する上乗せの加算区分を設ける。
また、これまで処遇改善加算の対象外だった、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援等について、新たに処遇改善加算を設ける。
[参考記事]
□全産業平均との差 約7万円 NCCU調査 介護賃金上昇も追いつかず(2026.02.06シルバー新報)
□なぜケアマネは上乗せ賃上げの対象外なのか ケアプー導入が要件なのに評価されない理不尽(2026.02.02ケアマネタイムス)
□「まだまだ低い」介護職の給与 人手不足の解消へ「報酬引き上げを」(2026.01.30朝日新聞)
□介護職の賃金、他産業との格差がさらに拡大 平均26.9万円=組合調査(2026.01.29ケアマネタイムス)
[北海道]
□医療・介護現場「生活苦しい」7割超 賃上げと公定価格の見直しを(2026.03.01朝日新聞)
□介護現場 賃金低く足りない人手(2025.02.04北海道新聞)
[新潟県]
□「介護報酬、配置基準見直し」 春闘本格化を前に県労連など4団体訴え(2026.02.28新潟日報)
「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」(2025年度補正予算 2025年12月~2026年5月)
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厚生労働省老健局
〇「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業に係る広報資材等について」の送付について(2026.02.04事務連絡)
介護サービス事業者の皆さまへ
介護職員は最大月額 1.9万円(※) 相当、介護職員以外も月額 1.0万円(※) 相当を、賃上げ支援!
※常勤換算の職員一人当たりの金額。平均的な職員配置を元に設定した交付率を総報酬に乗じて補助します。
〇「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業に関するQ&A(第1版)」の送付について(2026.01.21事務連絡)
「きまって支給する現金給与額」
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厚生労働省政策統括官付参事官付雇用・賃金福祉統計室
〇2025(令和7)年毎月勤労統計調査特別調査の概況(2026.01.26公表)
事業所規模1~4人
調査産業計 215,585円(男290,551円、女162,690円)
医療、福祉 202,069円
事業所規模5人以上
調査産業計 289,946円(男359,749円、女215,549円)
医療、福祉 270,122円
「女性労働者」
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厚生労働省政策統括官付参事官付雇用・賃金福祉統計室
〇2025(令和7)年毎月勤労統計調査特別調査の概況(2026.01.26公表)
女性労働者の割合
調査産業計 58.6%
医療、福祉 84.3%
介護福祉士
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□今年度の介護福祉士国試、受験者7万8千人超 昨年度から3千人増 「パート合格」導入初年度(2026.02.13ケアマネタイムス)
□介護福祉士試験、7万8469人が受験 今回からパート合格を導入(2025.02.09福祉新聞)
[関連資料]
公益財団法人社会福祉振興・試験センター(橋本正明・理事長)
◇介護福祉士国家試験
外国人労働者
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厚生労働省社会・援護局
〇介護福祉士国家試験のパート合格(合格パートの受験免除)による介護分野で「特定技能1号」の在留資格をもって本邦に在留する外国人の通算在留期間の延長に関する措置について(2026.01.21社援発0121第10号)
[関連記事]
□外国人材、転職しやすい制度で東京圏への移動加速か 医療保険の補助、資格手当…手を尽くしても給与増は難しく、苦慮する地方 特に、若い世代が… 先駆的な施策の効果は?(2026.02.13共同通信)
□介護分野特定技能1号の在留延長条件、国試1パート以上合格など 厚労省(2025.02.09福祉新聞)
□[山口県]外国人労働者は「不可欠な存在」 介護や建設の現場、地方でも支える(2026.02.08朝日新聞)
□外国介護人材の受け入れ上限16万700人 政府が分野別方針を決定(2026.02.01福祉新聞)
□特定技能の外国人、介護福祉士国試の「パート合格」などで滞在を延長 厚労省が特例措置(2026.01.28ケアマネタイムス)
□介護の特定技能1号、最長6年まで在留可能に-国試全パート受験など条件 厚労省通知(2026.01.26CBnews)
[関連資料]
厚生労働省職業安定局
〇「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(2025年10月末時点)~外国人労働者数は約257万人、過去最多~(2026.01.30公表)
専門的・技術的分野の在留資格 86.6万人(33.7%)
技能実習 49.9万人(19.4%)
以上
