乃南アサは、弱者へのやさしいまなざしが感じられ結構、読んでいる作家。
本作は、12編の犯罪小説に法科大学院教授という法律の専門家が解説をつけるという企画。
なかでも第10話『ご臨終です』は、いわゆる終末期医療がテーマだ。
少女に睡眠薬を使い「児童福祉法違反及び準強姦罪」で4年間服役した元・内科医が
医師免許を偽造して、地方都市の民間病院にもぐりこむ。
担当した多発性骨髄腫の男性(52歳)は、院長から可能な限り延命措置をするよう指示される。
だが、院長の不在中、家族からこれ以上、父親に苦しい思いをさせないでほしいと再三訴えられ、点滴とカテーテルを抜く。さらに、家族は無意味な治療をやめてほしいと繰り返し、通常の二倍の鎮静剤を注射する。しかし、今度はいびきを止めてほしいと言われて、抗精神約を注射するが、「楽にさせてほしい」とさらに言われて、塩酸パラベル、塩化カリウムまで注射して、ようやく心臓が停止した。
法律家の解説『安楽死の刑法学』では、安楽死には
①積極的安楽死
②消極的安楽死
③間接的安楽死
に分けられ、②と③は「個人の選択権」が認められるという。
①は、苦痛に耐えかねた患者の求めに応じ、周囲の者が薬物を与えるなど、行為としては「殺害」した場合、そのような行為を適法とするかどうかがテーマになるという。
もっとも、小説中のニセ医者は、①と②を行っているほか、無免許医療行為なので、重刑間違いなしとのこと。
小説を読むときには、犯罪者であっても主人公の心理に沿って物語を理解するが、法律家のそっけない分析を読むと、思い入れて読むのが間違いという気がしてくる。
作品と解説を交互に読むことで、読む側が意識の組み換えを迫られるのも面白い試みだ。
(乃南アサ著/新潮文庫/780円)
