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2022.05.17 国会議員に「介護保険制度の見直しについての要望書」を提出しました
 市民福祉情報オフィス・ハスカップは、内閣(経済財政諮問会議)に出されている財務省(財政制度等審議会)の介護保険制度の見直しをめぐる「提案」に危機感を覚え、5月17日、衆議院議員465人、参議院議員245人に「介護保険制度の見直しについての要望書」を渡しました。
 財務省の「提案」の中心は、利用者負担の引き上げ、ケアマネジメントの有料化、「軽度者」と呼ぶ要介護1と2の人へのホームヘルプ・サービスとデイサービスを給付からはずし、市区町村事業に移すことなどです。
 これまでの制度の見直しの経過を考えれば、今後、財務省の「提案」は経済財政諮問会議の『骨太の方針2022』につながり、閣議決定されてしまいます。
 そうなると、『骨太の方針』に盛り込まれた事項について、社会保障審議会は後追い状態になり、よくて継続審議、悪くすると譲歩案、あるいは妥協案になってしまいます。
 介護保険制度の今後の動きに、みなさんにも関心を持っていただけることを願っています。
国会議員のみなさまへ
介護保険制度の見直しについての要望書
2022年5月17日
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰 小竹雅子
 市民福祉情報オフィス・ハスカップは、2003年から介護保険について、メールマガジンの無料配信や電話相談、セミナーなどを企画している市民活動団体です。
 2020年以降、新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、居宅サービスの利用が停滞し、在宅介護の実情が把握できない事態になっています。市区町村が実施する地域支援事業や、事業所を指定する地域密着型サービスでは休止が続くサービスもあります。一方、介護保険施設や居住系施設では、サービスの継続を求められながら、「人材不足」に拍車がかかり、介護労働者はクラスターや「施設内療養」などへの対応に疲労を積み重ねています。
 しかし、昨年来、内閣や財務省では、2024年度の第9期介護報酬改定をみすえた介護保険制度の見直しをめぐり、利用者負担増、サービス抑制などの「提案」が相次いで出されています。
 これまでの見直しと同じく、介護を必要とする人たち、家族など介護をする人たち、そして、介護現場で働く人たちが気づかないうちに、見直しの骨格が作られつつあります。また、さらなる「提案」には、これまで以上に「介護のある暮らし」を圧迫するのではないかという危機感を抱きます。
 「提案」が既定路線になる前に、国会において、慎重な議論をしてくださいますよう、以下の要望をいたします。
介護保険制度の見直しについての要望項目
1. 利用者負担は実態にもとづき合理的な検討をしてください
2. 認定者へのケアマネジメントは全額給付を維持してください
3. ホームヘルプ・サービスとデイサービスを拡充してください
1. 利用者負担は実態にもとづき合理的な検討をしてください
 社会保障審議会では「利用者負担の引き上げ」が継続審議中ですが、財務省は、①原則2割や2割負担の対象範囲の拡大、②現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直す、としています。
 年金生活者がほとんどになる65歳以上の第1号被保険者のうち、認定者は689万人、認定率は18%程度ですが、2割負担と3割負担の人は合計しても約1割にしかなりません。また、認定を受けてサービスを利用しているのは516万人で、認定者の25%が給付を受けていないのです。また、これまで、2割負担になった人のなかには、サービスを半分に減らしているケースもあります。
 介護保険料と後期高齢者医療保険料が天引きされ、今年は物価高が予測されるなか、家計が苦しい人がさらに増えると思われます。
 介護保険のサービスが必要だと認定されているのに、経済的な理由で利用をあきらめる人を増やす政策は、被保険者のみならず国民の制度への不信感を広げます。
 「原則2割負担」、あるいは負担の基準を引き下げる見直しを急ぐことに反対します。
 経済協力開発機構のデータでは、日本の高齢者の貧困率は22%で、G7ではアメリカの23%に次いで2番目に位置します。
 「利用者負担」の見直しにあたっては、高齢者の負担能力を精査したうえで、被保険者が納得できる慎重な検討をおこなってください。
2. 認定者へのケアマネジメントは全額給付を維持してください
 社会保障審議会の継続審議には、全額給付のケアマネジメント(介護予防支援、居宅介護支援)に、新たに利用者負担を設定することがあります。加えて、財務省は「福祉用具レンタルのみのケアプランは報酬の引下げを行う」ことを提案しています。これを受けて、厚生労働省は「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」で、ケアマネジメントの有料化や、対象者の見直しを検討しています。
 ケアマネジャーが提供するケアマネジメントは、在宅サービスを利用する高齢者や介護家族にとって、ケアプラン作成だけでなく、定期的な訪問により、介護が必要な人の心身の状態を確かめ、ケアプランの見直しなどを提案する必須のサービスです。また、日常生活の悩みへの対応など、孤立しがちな介護環境を支え、高齢者虐待を予防する役割も果たしています。
 サービスの入り口で有料化すれば、「利用者負担の引き上げ」と同じように、必要なサービスを減らす人や、利用そのものをあきらめる人が出ることは当然、予想されます。
 介護が必要になる理由のトップは認知症で、脳血管疾患、高齢による衰弱が続きます。これらの人たちが、介護保険制度を理解し、主体的にサービスを選ぶのを支援するには、ケアマネジメントが不可欠です。
 制度の理念を守り、ケアマネジメントの10割給付を維持してください。
3. ホームヘルプ・サービスとデイサービスを拡充してください
 社会保障審議会では、「軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方」が継続審議です。「軽度者」とは要支援認定(要支援1、2)ではなく、要介護1、2の人たちです。また、ホームヘルプ・サービスの「生活援助」は、「介護のある暮らし」を維持する貴重なメニューです。
 財政制度等審議会はさらに、「軽度者へのサービスの地域支援事業への移行」として、要介護1、2の認定者へのホームヘルプ・サービスとデイサービスを給付からはずして、市区町村事業に移すことを求めています。あわせて、市区町村事業には、事業費の上限を強化することを求めています。
 在宅介護を支える主力サービスを法定給付から、事業費に制約のある市区町村事業に移すことは、家族など介護者の負担を重くするもので、働く介護者の「介護離職」を加速させ、近年、クローズアップされているヤングケアラーを支援するどころか、さらに増やしかねません。
 ホームヘルプ・サービスとデイサービスの給付を維持するとともに、すでに市区町村事業に移行している要支援認定者の実態を調査し、必要に応じて給付に戻す見直しを検討してください。
以上
【出典】
社会保障審議会
社会保障審議会介護保険部会(遠藤久夫・部会長)『介護保険制度の見直しに関する意見』(2019.12.27)
内閣
経済財政諮問会議(岸田文雄・議長)『新経済・財政再生計画改革工程表2021』(2021.12.23)
規制改革推進会議(夏野剛・議長)『規制改革実施計画』(2019.06.18閣議決定)
全世代型社会保障構築会議(清家篤・座長)第3回(2022.04.26)資料1「議論の整理」
財務省
『2022年度予算の編成等に関する建議』(2021.12.03)
財政制度等審議会財政制度分科会(榊原定柾・会長)2022年4月13日財務省資料1「社会保障」
経済協力開発機構
OECD Data『Poverty rate(貧困率)』66 year-olds or more(66歳以上)
厚生労働省:
 介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会(野口晴子・座長)第1回(2022.02.17)資料2「介護保険制度における福祉用具・居宅介護支援について」

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