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BF171 『ヘルパー裁判傍聴記 ホームヘルパー国家賠償訴訟』

ホームヘルプ・サービスを担うホームヘルパーは、非正規雇用の女性労働者で、「非常勤・時給」が多い。
介護保険制度の改定を議論する社会保障審議会は、21世紀だというのに、ホームヘルパーは「主婦労働」で「誰にでもできる」補助的労働、という扱いを続けた。

2025年現在、ホームヘルプ・サービスは、①要支援認定者(要支援1・2)への訪問型サービス(第1号訪問事業)、②要介護認定者(要介護1~5)への訪問介護(給付サービス)に分かれている。
①訪問型サービスは、市区町村(区は東京23区)の事業(地域支援事業)の「介護予防・日常生活支援総合事業」(通称・総合事業)。
②訪問介護は給付で、給付サービスとも呼ばれる。
最大の違いは、給付は認定者が増えれば財源も増やすが、事業は予算上限があり、認定者が増えても財源は増えない、ということだ。

超高齢社会の進行は、認定者を増やすから、需要も比例的に増え続ける。
給付から事業に移すのは「給付抑制」で、給付を利用する人(受給者)の伸び率が鈍化する。
ちなみに、要支援認定者は右肩上がりだが、訪問型サービスは委託事業所は増えているそうだが、利用者は減り続けている。

また、訪問介護は「生活援助」と「身体介護」、そして「通院等乗降介助」の3メニューに分かれている。
バッシングのターゲットは「生活援助」で、制度改定のたびに提供時間が短縮されてきた。
また、「同居家族」がいる場合は「生活援助」は利用できない、という制度上は存在しない規制が全国の自治体に広がった(「ローカル・ルール」とも呼ぶ)。
おかげで、経済力がある本人や家族は、公的保険は当にできないと、民間サービスにシフトしている。

制度改定は続いて、ケアマネジャーに、ケアプランを作るときは、「生活援助」の提供回数に上限を設定する、という制約を加えた。
上限を超える場合、ケアマネジャーは市区町村に届け出をして、地域ケア会議などで説明し、了解を得なければならない。
奮闘するケアマネジャーもいるが、「これ以上は利用できません」とケアマネジャーにつれなく言われている本人や家族もいるだろう。
自宅での介護ライフを維持するには「生活援助」は必須だが、提供するにはいくつものハードルがそびえる。

介護労働者は、仕事にやりがいを感じている人が多い。
とはいえ、支援すべき人に半端なサービスしか提供できないのは、労働意欲を著しく損なうだろう。
実際、ホームヘルパーの高齢化が進み(つまり、若い人が就職しない)、「人材不足」に陥っている(有効求人倍率は14倍!を超えたまま)。
最近は「少子化」が加速しているから、都合よく理由づけに使う専門家も多いけど、だまされてはいけない。
ホームヘルパーの不足は、度重なる制度改定が作り出したものだ。

おまけに、労働組合への加入が限りなく少ない非正規雇用のホームヘルパー(登録型訪問介護員)は、利用者宅を訪ね、実際にサービスを提供した時間にしか、給与が支払われない。
厚生労働省はサービス料金(介護報酬)に移動時間も含まれると主張するが、事業所サイドは規定の介護報酬で移動時間を保障したら採算があわないそうで、労使交渉をしても話は進まない。
介護報酬の引き上げが必要だけど、厚生労働省も社会保障審議会も無視するなか、2025年は訪問介護事業所の倒産件数が過去最多、ゼロ事業所の自治体も急増という報道が相次いだ。

移動時間も休憩時間もキャンセル料も保障されない、という過酷な労働条件に、我慢できなくなった3人のホームヘルパーが2019年に起こしたのが「ホームヘルパー国家賠償訴訟」だ。
平たく言えば、厚生労働省が、労働基準法を守ることができない料金設定(介護報酬)をするから、会社(指定事業所)が当然の給与を支払えない、責任は国にある、というものだ。

本書は、2019年11月、東京地方裁判所への提訴から、2023年の東京高等裁判所、2024年の最高裁判所まで、ねばりにねばった裁判傍聴の記録。

フリーライターの著者は、裁判ビギナーだったというのも幸いし、裁判の流れを、わかりやすく、グラフィックレコーディング(かわいいイラストだ)とともに説明していく。
原告団は、裁判所への証拠提出として、「ホームヘルパー2020働き方アンケート」を実施し、683人の回答をまとめた。
移動時間の手当・給与は支払われているという回答が7割になるが、1件100円(!)などリアルな実態が明らかになる。
待機時間やキャンセル料も同様で、体裁は整えているが、ホームヘルパーが仕事に費やす時間にみあう賃金には程遠い。

ケアを提供する時間以外の時間は「附帯労働時間」と呼ぶそうだ。
介護保険制度がはじまって25年が過ぎ、ホームヘルパーが無償で提供した「附帯労働時間」は、どのくらい積みあがっているのだろう。

2022年11月、東京地裁は原告の請求を棄却。
「不当判決」とした原告団は2023年1月、東京高裁に訴えた。
高裁の裁判長(女性)が原告団の主張に耳を傾けるエピソードが、興味ぶかい。
高裁は、国が事業者に監査や指導をしたのか、移動費用などを払えるだけの報酬体系にしているのか、と原告の主張を一部認めたが、敗訴。
2024年4月、最高裁に上訴したが、2025年3月、棄却された。
敗れたとはいえ、原告団は元気だ。
25年間、厚生労働省をはじめ関係者が認めてこなかったホームヘルパーの労働条件が、ひどいものだと司法が認めたのだから。

2025年末、社会保障審議会では介護保険制度の見直しを審議中だが、ホームヘルパー、訪問介護の改善に向けた意見はほとんどない。
それどころか、希望する「人口減少地域」の市区町村は、事業所の人員配置基準を緩和していい、訪問介護は移動時間も含めた(?)月額報酬にしていい、訪問介護と通所介護、ショートステイは“新類型の地域支援事業”にしていい、という見直し案が埋め込まれている。

本書をテキストに、全国のホームヘルパーや、地域で頑張る小規模事業所が「まともな給与(介護報酬)」、「まともな労働(サービス)」を求める声を高めてくれることを願う。

(宮下今日子著/ブリコラージュ/2500円+税)