[利用者の負担割合]
介護保険制度で「利用者負担」と呼ばれるのは、サービス料金(介護報酬)に対して、利用者が、それぞれの所得に応じて定率(1割、2割、3割)を支払うことで、「利用料」のことです。
定率のことを「利用者負担割合」とも言いますが、認定(要支援認定・要介護認定)を受けた被保険者に、認定結果の通知書(要介護認定要支援認定等結果通知書)とともに、市区町村から負担割合証(介護保険負担割合証)が送付されてくるので、確認することができます。
なお、認定を受けないと、通知はありません。
ちなみに、サービス料金(介護報酬)が値上げになると、利用料は比例して増えます(例:厚生労働省老健局『介護保険サービスの利用者・ご家族の皆さまへ 2024年6月から「介護保険サービス利用料」が変わります』)。
制度がスタートしたとき、「利用者負担」は「応益負担」といって、所得に関係なく1割でした。
しかし、2012年改正で「一定以上所得」は2割、2017年改正で「一定以上所得」のうち「現役並み所得」は3割に見直しが行われ、厚生労働省は「おおむね応能負担」と言います。
「一定以上所得」は、65歳以上の高齢者の所得層の上位2割にあたる「相対的に所得の高い方」です。
現在、介護保険サービスを利用する人の90%は、1割の利用料を払っています。
年金収入に頼る人が多いので、所得はそれほど多くないのがわかります。
利用者のうち、2割負担は4.3%、3割負担は3.9%で、介護付き有料老人ホームで特定施設入居者生活介護を利用する人の16%は2割以上の負担をしています(厚生労働省『介護保険事業状況報告』)。
介護付き有料老人ホームも超高級から低額まであるそうですが、入居費用や介護保険外の「生活介護サービス」など、別枠の支出も必要なので、所得が高い利用者が多くなるようです。
[10年越しになる2割負担の拡大プラン]
2015年から政府は、「負担能力に応じた公平な負担」として、2割負担を拡大することをを繰り返し求めています(経済財政諮問会議(安倍晋三・議長)経済・財政一体改革推進委員会(新浪剛史・会長)『経済・財政再生計画改革工程表』2015年12月24日経済財政諮問会議決定)。
2018年、2019年、2023年、2024年と『骨太方針』(経済財政運営と改革の基本方針)に盛り込まれ、制度の見直しを審議する社会保障審議会の介護保険部会で、「給付と負担」のテーマで、攻防戦が繰り返されています。
[「負担能力」の実態把握はない]
社会保障審議会の議論で焦点になるのは、「負担能力」です。
年金収入に頼る高齢者の「所得」に着目すれば、2割負担、つまり利用料が2倍になる対象を広げるのは無理な要求です。
厚生労働省は、2割負担、3割負担を広げた場合のシミュレーション資料を出しますが、委員からも疑問が出され、2割負担を拡大の結論を出すことができません。
利用者負担以外にも介護関連支出があるのに、認定者の家計調査が実施されたことはなく、2割負担になっても生活が維持できるか、あるいは1割負担もできないケースはどのくらいあるのか、といった実態が把握されたことはありません。
[医療保険にならって金融資産を捕捉するプラン]
そのなかで、登場したのが「預貯金」や「金融資産」も負担割合の条件に入れるプランです。
2025年12月1日、厚生労働省が社会保障審議会介護保険部会に提案したのは、「一定以上所得」の範囲を所得上位2割から、最大は上位3割まで拡大する、つまり「一定以上所得」の定義を、もっと所得の低い層に広げることです。
そして、新たに2割負担になる人には、①「当分の間」「負担増加の上限(月7,000円)を設定」する、②「預貯金等が一定額未満」の場合は、本人が申請すれば「1割負担に戻す」、という「配慮措置」をつけました(社会保障審議会介護保険部会(菊池馨実・座長)第130回(2025.12.01)資料1「持続可能性の確保」)。
2025年12月25日、社会保障審議会がまとめた『意見』は、「介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ」、「本部会で継続検討し、第10 期介護保険事業計画期間の開始(2027年度~)の前までに、結論を得ることが適当」とまとめました(社会保障審議会介護保険部会(菊池馨実・座長)『介護保険制度の見直しに関する意見』)。
このため、2割負担の利用者を拡大するプランは、今年も審議が続きます。
[高額介護サービス費の見直しは保留]
厚生労働省は利用者の負担割合を引き上げるたびに、利用料が一定以上になったときに払い戻しをする「高額介護サービス費」があるから、一律に利用料が2倍、3倍になるわけではないという説明をつけます。
しかし、高額介護サービス費でも、利用者の負担上限額が、繰り返し引き上げられています。
なお、引き上げが実施されるのは、年度はじめの4月ではなく、8月になります。
「現役並み所得」の自己負担額は、2015年度は3万7,200円から4万4,400円に、2021年には所得区分に応じて9万3,000円と14万0,100円になりました(厚生労働省『2021年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます』)。
また、「一定以上所得」は2017年度に3万7,200円から4万4,400円になりました(厚生労働省『2017年8月から月々の負担の上限(高額介護サービス費の基準)が変わります』)。
2025年の社会保障審議会では、高額介護サービス費の見直しは「引き続き検討を行うことが適当」とされ、具体的な見直しはおこなわれませんでした(社会保障審議会介護保険部会(菊池馨実・座長)『介護保険制度の見直しに関する意見』)。
[ショートステイと施設サービスの補足給付は、一部縮小]
ショートステイ(短期入所生活介護、短期入所療養介護)と施設サービス(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院)は、2004年改正で、食費と居住費(ショートステイは滞在費)がサービス料金(介護報酬)からはずされ、利用者が全額、自己負担することになりました(経済財政諮問会議(小泉純一郎・議長)『経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(骨太の方針)』2001年6月26日閣議決定)。
この見直しで、食費と居住費は事業所が設定する自由価格になりましたが、低所得の利用者のために、食費と居住費を補助する「補足給付」(特定施設入居者介護サービス費)が作られました。
なお、2004年改正で、通所サービス(デイサービス、デイケア)の食費も自己負担になりましたが、補足給付の対象ではありません。
「補足給付」の対象になる利用者は、最初は所得条件(住民税非課税世帯)だけでした。
しかし、2014年改正で、預貯金チェック(単身1,000万円未満、夫婦2,000万円未満)が導入され、所得には非課税年金(遺族年金・障害年金)も含めることになりました。
2020年改正では、負担段階が4段階に細分化され、預貯金の条件は最大で単身650万円、夫婦1,650万円に引き下げ、対象者の範囲は狭められています。
なお、食費と居住費を補助する金額は、介護報酬改定とともに見直しが行われる「基準費用額」の設定にもとづきます。
2021年度は食費、2023年度は居住費の「基準費用額」が引き上げになり、利用者負担が増えました。
2026年度は、食費と居住費の「基準費用額」の引き上げがあり、補足給付の第3段階①と第3段階②の利用者は、8月以降、負担増が予定されています(厚生労働省老健局「介護保険法第五十一条の三第二項第二号に規定する居住費の負担限度額及び同法第六十一条の三第二項第二号に規定する滞在費の負担限度額の一部を改正する件について(通知)」2026.03.13老介発0313第1号)。
[ケアマネジメントの有料化は継続審議]
介護保険制度では、ホームヘルプ・サービスとデイサービス、ショートステイなど、複数の在宅サービスを組みあわせて利用する場合、ケアプラン(サービス計画)を作ります。
認定を受けたら、要支援認定(要支援1、2)は地域包括支援センター(市区町村によって異なる愛称をつけている場合もあります。また、居宅介護支援事業所に委託しているケースもあります)、要介護認定(要介護1~5)は居宅介護支援事業所と契約して、ケアマネジャー(介護支援専門員)の訪問を受け、相談をしながらケアプランを作成します。
ケアマネジャーが行う相談支援、ケアプラン作成、給付管理、モニタリングなどの仕事をまとめて、「ケアマネジメント」と呼びます。
正式名称は、要介護認定は「介護予防ケアマネジメント」(地域支援事業の介護予防・日常生活支援総合事業を利用する場合)と「介護予防支援」、要介護認定は「居宅介護支援」で、介護保険から10割給付され、利用者負担はありません。
しかし、2018年から、利用者負担の引き上げと同じ構図で、ケアマネジメントの有料化が求められ続けています(経済財政諮問会議(菅義偉・議長)経済・財政一体改革推進委員会(新浪剛史・会長)『新経済・財政再生計画 改革工程表2018』(新経済・財政再生計画))。
2025年の社会保障審議会では、「ケアマネジメントの有料化」ではなく、住宅型有料老人ホームに「相談支援」を新設して、利用者負担を求めるプランを検討することになりました。
介護保険制度では、住宅型有料老人ホームは賃貸住宅と同じ「在宅」の扱いです。
入居している認定者は、自宅同様、ケアマネジメントにもとづき、在宅サービスを利用します。
どのような「相談支援」を新設するのかまだ、わかりませんが、ケアマネジメントの有料化を一部でも実現するため、無理やり考えたプランにみえます。
関係者のなかには、住宅型有料老人ホームを突破口に、ケアマネジメントの全面的な有料化をすすめるのではないか、と心配する声もあります。
(ハスカップ・レポート2023-2025『介護保険制度はなぜ、使いづらいのか?』再構成)
【利用料】 …………………………………☆
2割負担(一定以上所得)
………………………………
内閣官房
〇人口戦略本部(高市早苗・本部長)第1回(2025.11.18)参考資料1.社会保障改革の推進について(内閣総理大臣指示)
持続可能な社会保障制度のための改革を実行し、現役世代の保険料負担を抑えていくため、全世代型社会保障構築のための「改革工程」に掲げられた医療・介護保険制度改革の着実な実現に向けた議論を進めてください。
[改革工程]
内閣官房
〇全世代型社会保障構築会議(座長・清家篤 日本赤十字社社長/慶應義塾学事顧問)全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について(2023.12.22閣議決定)
2.医療・介護制度等の改革(抜粋)
・介護保険制度改革(第1号保険料負担の在り方の見直し)
・介護保険制度改革(ケアマネジメントに関する給付の在り方、軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方)
・介護保険制度改革(利用者負担(2割負担)の範囲の見直し、多床室の室料負担の見直し)
[財務省]
〇2026(令和8)度社会保障関係予算のポイント
社会保障制度改革の推進
(5)介護保険制度改革
1.利用者負担の「一定以上所得」(2割負担)の判断基準の見直し
2.有料老人ホームの入居者に係る利用者負担の導入
3.補足給付の見直し
[厚生労働省]
厚生労働省老健局
〇全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議(2026.03.10)介護保険計画課資料
(4)一定以上所得基準の見直しについて
2027年度からの第10期介護保険事業計画の開始の前までに結論を得られるよう、議論を進めていくことなる。
[関連記事]
□社会保障 介護保険負担2割の拡大、「検討必要」明記(2026.03.10毎日新聞)
□「人口減前提」政策を重視 政府、少子化反転と両輪―「長期的取り組み必要」(2026.02.26時事通信)
□衆院選 与党大勝で負担増に現実味 ブレーキ役なく改革検討へ(2026.02.13シルバー新報)
□親の介護を担う現役世代「しわ寄せがくるのでは」 膨らむ費用、国はどう賄う?(2026.02.06中日新聞)
□2割負担拡大なら「利用控える」5割 民医連 利用者調査(2026.01.09シルバー新報)
[社説]
□改革なくして医療介護は続かない 負担減の幻想を破れ 給付効率化を忘れるな 現役世代に離職の危機(2026.02.22日経新聞)
□危機感を高め高齢化に克つ日本を(2026.01.08日経新聞)
補足給付(食費・居住費)
………………………………
厚生労働省老健局
〇介護保険法第五十一条の三第二項第二号に規定する居住費の負担限度額及び同法第六十一条の三第二項第二号に規定する滞在費の負担限度額の一部を改正する件について(通知)(2026.03.13老介発0313第1号)
・介護保険施設等における居住費又は滞在費に対して支給される特定入所者介護(予防)サービス費について、支給額の見直しを行う
・施行 2026年8月1日
[食費]
基準費用額 1,545円 (月額4.7万円)
第3段階① 680円 (月額2.1万円)
第3段階② 1,420円(月額4.3万円)
[居住費]
基準費用額 915円 (月額2.8万円)
第3段階②
多床室 530円 (月額1.6万円)
従来型個室 980円 (月額3.0万円)
ユニット型個室 1,470円 (月額4.5万円)
※第3段階②(年金収入等120万円超、預貯金 単身500万円・夫婦1500万円以下)
食費60円+居住費100円=日額160円(月額約5,000円、年額約6万円)
[関連資料]
厚生労働省老健局
〇社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長・田辺国昭 東京大学大学院法学政治学研究科教授)第253回(2026.01.16)資料1.2026(令和8)年度介護報酬改定について
〇社会保障審議会介護保険部会(部会長・菊池馨実 早稲田大学理事・法学学術院教授)第133回(2025.12.25)介護保険制度の見直しに関する意見(案)(参考資料)
3割負担(現役並み所得)
………………………………
厚生労働省保険局
〇全国高齢者医療主管課(部)長及び国民健康保険主管課(部)長並びに後期高齢者医療広域連合事務局長会議(2026.03.11)保険局高齢者医療課説明資料
P.171 高齢者の「現役並み所得」について
医療保険
・現役並みの所得水準として、協会けんぽ(旧政管健保)の平均収入額を設定し、窓口負担や高額療養費の負担区分の判定に用いている。
介護保険
・自己負担限度額(高額介護サービス費)の現役並みの所得基準は、医療保険と同様の基準を用いている。
・一方で、利用者負担における現役並みの所得基準については、医療保険制度の現役並み所得の基準(課税所得145万円)をもとに、年金世帯をモデルに合計所得に換算した基準を用いている。
「金融所得」
………………………………
厚生労働省保険局
〇全国高齢者医療主管課(部)長及び国民健康保険主管課(部)長並びに後期高齢者医療広域連合事務局長会議(2026.03.11)保険局高齢者医療課説明資料
P.166 全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)(2023年12月22日閣議決定)
医療・介護保険における金融資産等の取扱い
・預貯金口座へのマイナンバー付番の状況等を踏まえつつ、資産運用立国に向けた取組や国民の安定的な金融資産形成の促進などにも配慮しながら、医療・介護保険における負担への金融資産等の保有状況の反映の在り方について検討を行う。介護保険の補足給付の仕組みがあるところ、医療保険では、保険給付と補足給付の仕組みの差異や、加入者数が多く保険者等の事務負担をどう考えるかといった指摘があることも踏まえ、検討を行う。
[関連記事]
□金融所得の保険料・窓口負担への反映は30年ごろ-後期高齢者医療で 厚労省(2026.03.11CBnews)
[関連資料]
内閣官房
〇医療・介護保険制度における金融所得の公平な取扱いに関する関係府省庁会議(2025.11.26関係府省庁申合せ)
第1回(2026.11.26)資料
資料2.厚生労働省提出資料
金融所得に係る法定調書を活用したスキーム(案)
法定調書へのマイナンバー付番徹底の要請
オンライン提出義務化(2~3年程度)
2.医療保険における負担能力の把握について
3.社会保険における金融所得の取扱い
4.論点
以上
